毒々しくて得体の知れなかった粘体おもちゃ・スライム
有名なテレビゲームのキャラクターがその名を冠するまで、スライムといえばこれのことだった。
これまたテレビCMで、オリジナルを見たのが先だった。大きなバケツに入っていて、どうやって遊ぶのだろうという疑問が吹き飛ぶほど、インパクトある形状や質感だった。
当時、駄菓子屋で入手できた廉価版はそれよりずっと小さいサイズだった。
入れ物から出すと、蛍光色の粘体がべっとり広がり、何がなんだかわからないうちに周囲や服にくっついた。そして親に叱られ、掃除した。
やがて塵を集めてドス黒くなったスライムは、分解されたキューブと同じく、何処かへ消えた。多分親が捨てたのだと思う。
あのときの感触をもう一度味わおうと、近所の駄菓子屋で買った現在の廉価版スライムの蓋を開けて中身を出すと、すぐに違和感があった。
ドロッと流れ出るのではなく、ボタっとかたまりのままこぼれ落ちたのだ。昔のものが“トロロ”ならこれは“ゼリー”のような感触。両手で引っ張ったら、伸びることなく千切れた。
容器を見ると、主要材料はグアーガムとセルロース。これらは、食品成分表で見かける食物繊維だ。万一こどもが口に入れた場合の、リスクヘッジかもしれない。
衣類にベトついたりすることもなく、いろんな点で無害。お母さんもニッコリ。
が、毒々しくて得体の知れないイメージのスライムが、いつの間にか、安心安全でキレのいい存在に変わっていた現実に私は戸惑い、どう遊んでいいかがますます謎となった。
なお、今回紹介した廉価版おもちゃは、東京都台東区蔵前の卸売店で購入したものだが、同様のおもちゃは百円ショップなどで百円程度で入手できる。
廉価版おもちゃは親から嫌われていたヤンチャ友達
廉価版おもちゃはどれも、親が私に与えるのをためらった。
銀玉鉄砲は危険。
キューブは無駄。
スライムは面倒。
親の歳になった今考えると、無理もないと思う。
まるでこれらのおもちゃは、「あの子と遊んじゃいけません」と言われた近所のヤンチャ友達のようだ。親に叱られるリスクを伴うヤンチャ友達との遊びは、しかし、憧れと新しい体験に満ちていた。
今は、少しの危険すら冒すことが禁じられ、色んな意味で難しい風潮がある。
だからこそ、あの頃のヤンチャ友達との思い出は、より懐かしい。
文・イラスト・撮影/柴山ヒデアキ