漫画・アニメは日本の誇る「文化」、世界に必須な「産業」

お子さんのいらっしゃる信徒の方から、親御さんとしての立場で、類似のご相談をいただくことがあります。そんなときはまず最初に、私自身が楽しみに読んできた作品についてお話することにしています。

私は1975年生まれですので、世間的にはファミコン世代であり、少年漫画誌全盛世代の真ん中です。そのように目されることを私は恥じませんし、どちらかといえば自負心に近い気持ちさえ抱いております。

私が、誰はばかることなくお勧めするのは、河合克敏さんの作品です。『帯をギュっとね』は、浦沢直樹さんの『YAWARA!』と並ぶ柔道漫画の金字塔ですし、延暦寺の住職になってからも熱意を持って臨書に取り組めたのは、『とめはねっ! 鈴里高校書道部』の影響も大きかったのです。

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競艇の世界を活写した『モンキーターン』には特に驚かされましたが、河合さんの作品は緻密な取材に基づいて描かれているだけでなく、フィクションとしての飛躍とリアリティの天秤が、きわめて高い次元で釣り合っているように思います。

80年代後半から90年代初頭にかけて、漫画とアニメの両面から欧米に衝撃を与えた『AKIRA』から、タイで民主化運動のシンボルとして掲げられる『とっとこハム太郎』まで――漫画とアニメは、今や日本の誇る「文化」であるとともに、世界が必要とする「産業」として成長を遂げました。その客観的事実を、ご両親が理解なさっていないはずはありません。

「結婚して、子供を持つ夫婦生活」か「漫画・アニメに浸る独身生活」阿闍梨が説く本当に幸せな人生は?_3

親御さんは、漫画やアニメを責めることで、遠回しに「あなたに対する不満や不安」を表現しているのではないでしょうか。それは一種の優しさの表れです。
けれど同時に、あなたが、今の暮らしで〈本当の幸せ〉を感じていらっしゃるなら、漫画やアニメを卒業する必要はないと思います。その選択もまた、ご両親に対する婉曲な返答でしょうから。