1年生・田臥勇太、衝撃の全国デビュー
1996年夏に山梨で開催されたインターハイ。初戦の相手の横浜商大高は、3月の練習試合で、7試合中5回も負けたとあって、能代工からすれば厄介な相手だった。
ましてや横浜商大は田臥の地元、神奈川の代表校だ。メンバーのなかには知っている顔もいる。なにより、1年生の彼にとって初の大舞台でもあり、緊張もある。表情が硬くなるのも無理はなかった。
「緊張してるのか?」
試合前のウォーミングアップでマネージャーの金原一弥が尋ねると、田臥は素直に「はい」と返す。そんなぎこちないやり取りに気づいた畑山陽一が、田臥にボールを投げつけてケラケラ笑う。先輩たちは、そうやって1年生に平静を取り戻させようと努めていた。
手の内を知られているだけに、この試合でも前半から劣勢を強いられたが、思わぬところで能代に流れが傾く。前半も残り10分を切った頃だ。10点ほどリードされていた展開で、突如、視界が遮られる。会場が停電するアクシデントが発生したのである。
試合が中断するなか、潮目の変化を瞬時に察知した監督の加藤三彦は、2年生ポイントガードの畑山を呼び、指示を送った。
「点差が離れちゃったから、お前と田臥で3ポイントをどんどん打っていけ」
試合が再開すると畑山が田臥へ積極的にボールを供給し、加藤の思惑通り立て続けに3ポイントが決まった。試合は結局、前半で1点差として流れを掴んだ能代工が、79-61で難敵を退けた。田臥は30得点を記録。試合前に緊張で硬かったルーキーの、華々しいデビューだった。
1冠目…立ちはだかる大型チーム
1、2年生主体の能代工にとって、インターハイ制覇への道は過酷だった。
2回戦の東住吉工に77-66と辛くも勝利し、3回戦は小林に82-58、準々決勝は市立船橋に96-61と強豪との対戦が続いた。そんな大会のハイライトは準決勝の福岡大大濠戦だった。205センチのセンター・三苫佑介を筆頭に、スタメンの平均身長は191センチ。平均184.6センチの能代工より7センチ近く高い大型チームで、優勝候補にも挙げられていた。
ゴール下で競り合うセンターの小嶋にとって、三苫との15センチの差はあまりにも大きすぎたが、それでも臆せず空中戦を戦えたのには理由があった。