窃盗、性犯罪、暴力、依存症、虐待…
だが、先述のような重大犯罪を起こした者たちは、福祉のケアを受けてもなかなか問題行動がなくならない。施設で暴れる、他の入所者や職員に危害を加える、無意味な言動を繰り返すなどして、周囲の人々を疲弊させていく。
こうした者は、いくつかの障がい者支援施設をたらい回しにされた後、行き先がなくなると精神病院へ送られることになる。そして、いわゆる薬漬けにされて、廃人同然になって生きていくのである。
もしかしたら、これは仕方のないことだという意見もあるかもしれない。だが、本当にそうだろうか。
今回は殺人事件を例に、凶悪犯罪をする少年の内面について見てきたが、ここまで重大なケースでなくても、障がい児が虐待を受けることで認知が大きくゆがみ、後に非行や犯罪と呼ばれる逸脱行為に及ぶことはある。それは、窃盗、性犯罪、暴力、依存症、虐待といった問題として表出する。
こうした犯罪では、加害者が殺人ほど重く裁かれることはないし、福祉にもつながりにくい。そうなると、彼らは治療や支援をほとんど受けないまま、社会で同じような問題行動をくり返すことがある。それは私たち全員のリスクになる。
そのように考えた時、私たちはもっと障がい者への虐待が生み出す出来事の深刻さに意識を向けるべきだろう。やらなければならないのは、加害者を裁かざるを得なくなる前に、障がい者への虐待を止めることなのだ。
冒頭で知的障がい者の被虐待リスクが健常児の13.3倍だと紹介した。今後おそらくこれより高くなることはあっても、低くなることはないだろう。それをいかに減らすのか。
その議論が、日本の安心・安全を守るアプローチの1つであることはまちがいない。
取材・文/石井光太