「父から逃げるために、誰でもいいから殺そう」

知的障がい者の被虐待リスクは健常児の13.3倍。虐待する父から逃げるために、なぜ誰でもいいから殺そうと思ったのか_3
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ある日、少年Aは仕事の上で些細なミスした。この時、彼はこのままでは父親に殺されると思った。それまでの虐待がフラッシュバックし、パニック状態に陥ったのだろう。

そして彼は誰かを車ではねて警察に捕まれば、父親に殺されずに済むと考えた。そして彼は会社のトラックで、仕事帰りの若いビジネスマンをはねて殺害したのである――。

なぜ、彼はこのような突拍子もない行動に出たのだろう。

第一に、少年Aは父親から虐待を受け続けたことで人間形成に大きなゆがみが生じていた。医学の世界では、虐待を受けた子供が脳の発達を妨げられ、思いやりを持ったり、感情を抑制したり、コミュニケーションをとったりすることが不得意になることが明らかになっている。ここに生まれつきの障がいが加われば、子供たちの生きづらさが増すのはいうまでもない。

第二に、親の支配から逃れられないことで、少年Aは絶望感を膨らませていた。小さな頃、彼には学校という逃げ場があった。だが、中学卒業と同時に実家で働かされたことで、24時間、365日にわたって父親の暴力にさらされることになった。これが彼の希望を打ち砕いていたことはまちがいない。

事件当時、少年Aは19歳だった。中学を卒業してから4年が経ったことで彼の認知のゆがみと絶望感は爆発寸前だったのだろう。その時に、仕事のミスが起きた。

一般的な家庭で育った人なら、上手にミスを隠すなり、別の方法で父親の支配下から逃れる術を考えたはずだ。だが、少年Aの精神はもはやそれができない状態になっていた。そしてこう考えたのだ。

「父から逃げるために、誰でもいいから殺そう」

こうやって、彼は凶悪犯罪へと突っ走ったのである。