百合の花が印象的な最後の撮影は、2022年4月の沖縄県・久米島ロケでのこと。実は、この久米島ロケ自体も、2度の延期を経てようやく実現したものだった。
1度目は、2021年の7月上旬の予定だったが、5月に3回目となる緊急事態宣言が発出され、ギリギリまで撮影の可能性を模索するも、沖縄県の緊急事態措置の延長などにより中止・延期となる。
さらに、リスケジュールされた7月下旬からの撮影予定期間は、沖縄だけでなく東京にも緊急事態措置が追加されるなど状況は好転せず、再度の中止・延期となったのだった。
この2度目の中止・延期により、もうひとつの決断もくだされることとなる。
当初の予定では、写真集は、『ヒロスエの思考地図 しあわせのかたち』というエッセイ集と2冊同時発売が計画されていた。けれど、久米島ロケの2度にわたる中止・延期。スケジュールも含めた今後のロケ撮影の見通しもたたないため、同時刊行をあきらめざるを得なくなったのだ。
だが、その瞬間に『C'est la Vie』は〝ドキュメントな写真集〟となったのかもしれない。図らずも、よりゆっくりと時間をかけることが許された一冊に。
写真について振り返ることは、思い出を語ることと同じであった。
平成の当時、日本で一番写真を撮られたであろうショートカットの少女が、40代の女性としてリリースするドキュメントな写真集の名は『C'est la Vie』。「セラヴィ」と読み、直訳するのなら「これが人生」という意味だ。
インタビュー現場で写真と思い出について振り返ってくれた広末さんが、タイトルに込められた想いを教えてくれた。
「強すぎず、物足りなくもなく、ちょうどいい感じのタイトルがいいなと思っていました。編集の方にいただいた提案のなかで、『C'est la Vie』が一番しっくりきました。自分が書かせてもらったエッセイの最後を締めくくる文章から引っ張ってきてくれた言葉でもあったので。
直訳すると、『これが人生』という意味なんですけど、私がフランスでその言葉を投げかけてもらったのは、ホームステイ先のマダムからだったんです。私の語感としては、日本語で耳にした『これが人生だよ』って、ネガティブな時に口にする印象でした。
『そんなもんだよ、人生なんて』とか、失敗した人を慰める時に『これが人生だよ』って。実際のフランスでも、そういう意味で使うことが多いそうなのですが、そのフランス人のマダムは、本当に奇跡のように、素敵なことが起きた瞬間に『涼子、これが人生よ!』と言ってくれたんです。
その言葉にすごく救われたし、うれしかったし、〝私もそう思う!〟と共感し、そのマダムのような生き方がしたいと強く思いました。
そういう実体験もあったので、セラヴィという希望的な言葉の響きがこの写真集のタイトルになるのはよかった。
コロナのこともそうですし、震災もそうだったし、いまの戦争もそうだけれど、エンターテインメントなんて不要なのかも知れないと疑問が生まれてしまう時にこそ、希望を感じてもらえるのなら……。
日々の糧を得ることはもちろん重要ですけど、楽しむことも人には大切だと気づいてもらえたり、そんなに大げさなことじゃなくても、ちょっとだけ気分転換してもらえたのなら、こんなにうれしいことはありません」
取材・構成/唐澤和也 撮影/野﨑慧嗣 ヘア&メイク/陶山恵実 スタイリスト/竹岡千恵
♯2<最新写真集発売・広末涼子独占>「いい笑顔をしてるってことと(笑)、印刷される写真の贅沢感を思い出させてもらいました」に続く
(衣装クレジット)
ベスト¥33,000/ドローイング ナンバーズ 新宿店(ドローイング ナンバーズ) ジャケット¥64,900、パンツ¥42,900/ともにコロネット(デザイナーズ リミックス) 靴¥19,800[参考価格]/ザ・ウォール ショールーム(センソ) ピアス¥36,300、ネックレス¥110,000、バングル¥99,000、リング¥162,800/すべてホワイトオフィス(ジジ)