壮絶な修行の先に見つけた「掃除」の教え

――織田信長による比叡山焼き討ち(1571年)以降、50人目となる千日回峰行の満行者、北嶺大行満大阿闍梨ともあろう方が「掃除」にまつわる本を刊行されたことに驚きました。

もっと小難しい言葉で、深淵な理屈を申し上げればよかったでしょうか。

――いえいえ、本当にやさしい語り口だったので、しっかり伝わったというか。

法話でも心がけていますが、なにより嬉しい言葉です。難しい言葉を使って伝わらない、というのは、昔ながらのやり方を守っていても実際は綺麗になっていない掃除、と同じ始末になってしまいますので。

――思春期の子供とうまく付き合うための「床だけ掃除」や、日々の掃除のルーティンに家族を巻き込む方法など、まったく納得の生活の知恵が満載されているだけでなく、「大きな壷」や「日常の言葉を整える」など、家の内外、自分の内外にあたる心と身体を整えるための「気付きの本」として拝読しました。

では、今日もお掃除をなさってから、ここに?

――帰った後、気力があれば……。

じつは私も、今日はまだ朝のおつとめをしただけです。これから仏間を掃除して、床の間に花を生けようかと。

――なかなか、思うようには生きられないものですね。恥ずかしいかぎりです。

できないことは、できないでよろしいのです。長所をもって、短所をおぎなう。そう考えて、気楽にやっていきましょう。

取材・文/山田傘 写真/打田浩一

比叡山大阿闍梨 心を掃除する
光永圓道
約1000日間山中を歩き、9日間飲まず、食わず、眠らない修行を成就した僧侶の言葉「できないことは、できないでよろしいのです」_3
2022年11月25日
1650円(税込)
単行本 240ページ
ISBN:‎ 978-4-09-388893-6
地球1周分に相当する約4万キロメートルを7年かけて徒歩で巡礼し、9日間にわたって断食・断水・不眠・不臥で不動明王を念じる千日回峰行は、平安時代から1000年以上続く、命がけの難行苦行の修行。

織田信長が比叡山延暦寺を焼き討ちした1571年以降、満行した者はたった51人だけ。荒行を経た大阿闍梨は「不動明王の化身」である生き仏となる。光永圓道大阿闍梨が天台仏教、そして荒行で体得した「良く生きるための気づき」を、掃除という万人共通の生活行動を通して説く、唯一無二の人生哲学書であり、自己啓発書。

やらされるのではなくやる、身の回りを整理することで心を切り替える、まずは美しい所作から身につける、きれいにしてはいけない美しさがある、など心が整い、今日より明日、明日より明後日をよりよく生きるためのヒントに気づかされる一冊。
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