膨大な事務作業に追われる日々
小路さんは、長野県塩尻市にある浄土宗善立寺の副住職。元々リコーのエンジニアだった彼は、寺院の一人娘との結婚を機に僧侶への道を選んだ。しかし、修行を終えて善立寺に入ると、今まで知らなかった寺院運営の大変さに直面することになる。加盟団体への諸連絡、檀家さんの名簿管理、法事の通知…。目がくらむほどの事務作業が控えていたのだ。
「お坊さんというと、“濡れ手に粟”で、高級車に乗って……というようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際はまったく違っていました。実は、日本にある寺院の約半分は、専業ではやっていけなくて。別の仕事を掛け持ちながら、なんとか続けているところが多いのです。人を雇う余裕もありませんし、膨大な仕事を家族経営でやりくりしている寺院がほとんどです」
そこで小路さんは、デジタルを活用することで事務作業の負担を軽減しようと考えた。
手始めは、寺院が管理する墓地の管理だった。それまではお墓の位置と名前を紙に書いて管理しており、お墓参りに来た人に「◯◯さんのお墓はどこですか?」と聞かれると、紙を端から見渡して探し出す必要があった。長いときには10分くらいかかることもあったという。
そこで小路さんは、まずお墓の区画に番地を振り、はがき作成・住所録管理ソフト「筆まめ」に入れていた檀家情報にその番地を登録していった。この方法で、お墓の場所をわずか1分ほどで探し出せるようになった。
「10分かかっていたものが1分に減ることで、『どちらからいらしたのですか?』と世間話をしたり、来てくださった方との関係性を深める余白が生まれました。デジタルによる効率化と言うと冷たい印象がありますが、新しいことをする時間を作り出せるのが、本当のメリットだと思います」