ライダースジャケットはバイク乗り用の実用着として20世紀前半に生まれたが、ロックテイストなストリートウェアとしての印象が濃厚になるのは、1970年代のパンクムーブメントの頃。

ミュージシャンの中では、ムーブメントの核にいたセックス・ピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスのスタイルが一際目を引く。
パンク神の化身のようなシド・ヴィシャスは、いくつかのライダースを愛用していたが、特にショットの「618」など、裾にベルトが付いたアメリカ仕様のライダースがお気に入りだったようだ。

革ジャンをふんわり柔らかく、着心地抜群にしてくれる秘密のオイル_2
シド・ヴィシャス(CD「Sid Lives」)

ザ・クラッシュの面々も、ライダースの着こなしは完璧だった。
フロントマンのジョー・ストラマーは、腰の両サイドに2本ずつのアジャスターベルトが付いたロンドン仕様のライダース、ルイスレザーズの傑作「ライトニング」を愛用していた。

シド・ヴィシャスやラモーンズが着ていたのと同じ、
ショットの大定番「618」

彼らロンドンパンクに先駆け1970年代前半に登場したニューヨークパンク勢、ラモーンズやジョニー・サンダース、パティ・スミスなどのライダーススタイルもお手本になる。

ライダースファッションの歴史をもっとさかのぼると、1960年代のアンディ・ウォーホルのスタイルに象徴されるアート界やハリウッドでの流行、さらに1950〜60年代のアメリカのバイカーズ及びイギリスで流行したロッカーズスタイルへとたどり着くのだが、蘊蓄を語り出すとキリがないのでこのへんにしておこう。

革ジャンをふんわり柔らかく、着心地抜群にしてくれる秘密のオイル_3
ラモーンズのボーカリスト、ジョー・ラモーン photo:Jkelly

クローゼットの奥から引っ張り出した、僕のライダースの話だ。
僕のライダースはショットの「618」。
シド・ヴィシャスやラモーンズのメンバーも愛用していた、定番中の定番である。

買ったのはかれこれ20数年も前だが、そもそも古着屋で購入しているので、製造年代はよくわからない。
革ジャンはファッションアイテムの中でもマニアが多く、タグや微妙なデザイン・縫製の違いなどから製造年代を割り出す人もいるけど、僕はモノ系マニアではないので、そのあたりはわからないままでよしとしている。

ラモーンズやシド・ヴィシャスと同じだぜと思って喜んで着てはいるが、そもそも彼ら自身が自分のライダースのブランドや型番を詳細に語ったことはなく、実は形のよく似た他社製品であるとか、名もなきメーカーの模造品だったのだとか諸説あるので、そこを追求してもあまり意味がないのだ。

で、僕のライダースは前述のとおり、やや宝の持ち腐れ状態なので、いつまで経ってもあまり傷まない。
特にパンクスのライダースといえば、着込みに着込んでヨレヨレになった形がベストなので、僕もたまに着る際にはわざとラフな扱いをしたりするのだが、なんせ着る回数が少ないのでなかなか味は出てこないのだ。

でも、タンスの肥やしにしていても、本革製品のライダースは徐々に経年劣化していく。
年間の気温や湿度の変化にさらされるためか、表面の油が抜けて革がカピカピに硬くなってくるのだ。

着込むことによって生じる味とはまったく異なる、そうした変化はあまり好ましくないので、シーズンが来てクローゼットから引っ張り出したライダースに、僕はまず、あるお手入れをすることにしている。