発光する深海サメを人工子宮で育成

––近年のサメに関する研究成果には、どのようなものがありますか?

いろいろありますが、大きい成果でいうと、独自に開発したサメの人工子宮装置を使って、深海性の発光するサメ「ヒレタカフジクジラ」の胎仔を育成し、人為的な出産に成功したことです。生まれた個体は現在も飼育しています。
ヒレカタフジクジラはこれまで長期的に飼育されたことがない種類のサメで、沖縄美ら海水族館が初めてそれに挑戦しています。

––発光するサメがいるんですか!?

我々が深海に沈めたカメラで、世界で初めて光っている姿の撮影に成功しました。こちらは動画をYouTubeに公開しています。
このヒレタカフジクジラはまだ沖縄美ら海水族館で一般公開していないのですが、いずれしたいと思っています。現在、水槽の形状や、展示室の照明をどうするかといったことについて試行錯誤中です。

めったに人は襲わない、寿命500年、人工子宮で育成…沖縄美ら海水族館に聞いた知られざるサメの生態_05
めったに人は襲わない、寿命500年、人工子宮で育成…沖縄美ら海水族館に聞いた知られざるサメの生態_06
沖縄美ら海水族館では、世界で初めて人工子宮装置を使って「ヒレタカフジクジラ」の胎仔育成に成功した(写真提供/国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館)

––深海くらい真っ暗だと、来場者は何も見えないですもんね。

そうなんです。だから、サメに影響がない波長の照明や、暗視カメラを使うなどの方法を考えています。
あとは、飼育しているジンベエザメの繁殖の研究は今後も取り組みたいですね。成熟したジンベエザメのオスとメスは別のところを回遊していて、接触するのは繁殖のときだけ、ということがわかってきました。
これまで、沖縄美ら海水族館ではオスとメスのジンベエザメを同じ水槽で飼育していたのですが、今後は別の水槽で飼育したほうがいいと考えています。メスのジンベエザメが2021年6月に死亡してしまったので、今後メスを飼うとしたら、これまでとは違う方法で繁殖を目指したいと思っています。

––日本国内で最も長く飼育されたメスのジンベエザメだったんですよね。残念です。

この個体は、野外での事故により頭部に障害を負っていたことが剖検でわかりました。このメスはおそらく、野外であればここまで長くは生きられなかったでしょう。結果として、私たちの挑戦は一度足踏みとなってしまいますが、長い時間がかかっても飼育下での繁殖は実現させたいと思っています。
もちろん、機会を待つだけではなく、サメの人工授精の技術も少しずつ進んできたので、ジンタから精子を採取して、別の場所で飼われているメスと受精させることも考えています。さて、私が生きている間に可能になるかどうか…。

––サメが長寿なだけあって、研究も長期スパンですね…!

いつ実現するかはわかりませんが、私たちの次の代にもつながるための研究は続けていきます。いつどこでチャンスがあるかわかりませんからね。


取材・文/崎谷実穂