社会人の学び直しとリスキリングを目指す
もう1つの「リスキリング工学教育プログラム」は、社会人や学生を対象として、技術革新やビジネスモデルの変化に対応できるように最先端の人工知能や起業家教育、次世代通信などをオンライン学習できるというもの。講座修了後には科目ごとに修了証が発行される仕組みだ。
講座は受講生のニーズやレベルに合わせて複数用意され、社会人の申し込みについてはメタバース工学部の趣旨に賛同した法人会員が会社単位で登録できる。現在は個人の社会人は受講を受け付けていないが、松尾豊教授(東京大学大学院工学系研究科)が監修した「グローバル消費インテリジェンス(AI講座)」については、中学生以上の学生は参加可能。
また、介護や育児などのライフイベントによる離職者・求職者・休職者も一定枠内で受け付けている。
「AI講座以外にも、次世代サイバーインフラ、Python基礎、アントレプレナーシップといった講座を開きます。AI講座は東大生にも人気のある講座で毎年2000人以上が学んでいますが、これは近い将来には2万人や20万人が参加するようにしていかなければなりません」
また、これらの2つの教育プログラムとは別に、主に中高生と工学部生を対象とした「工学キャリア総合情報サイト」も開設予定。工学部のキャンパス訪問や就活時のキャリア疑似体験談など、当事者目線によるリアルな情報を提供するWebサイトになる予定だ。
「特にロールモデルの少ない女性工学キャリアについて、情報提供を積極的に行っていくことが目的です。また、企業の経営者の方々と話していると、カーボンニュートラルやDX人材の育成と並んでダイバーシティの実現に悩んでいると聞きます。例えば、女性役員が30%に満たない企業は将来海外との取引に支障を来すこともあるでしょう。大学としても工学分野のダイバーシティ推進を加速させる必要性を感じています」
工学部は情報やテクノロジーで社会課題の解決を目指すことが重要であり、そのためには地域や自治体、民間企業といった社会のあらゆる領域との連携によって多様なDX人材の育成が必要となってくると語る染谷教授。
東京大学のメタバース工学部はこの課題解決にどう貢献していくのか、今後の動きに目が離せない。
文/栗原亮(Arkhē)