“新しい人”にお願いしたかった

――監督を務める中山竜さんはTVアニメ監督は初めてです。瀬下さんからオファーをしたとのことですが、どのような理由から中山さんにオファーしたのでしょうか。

自分が預かった作品を今、僕が1番興味のあるクリエイターと新しいチームでつくってみたいと思った、という単純な理由です。そもそも我々プロデューサー陣はどんな作品でも等しく「この作品を映像化するにはどのような形が1番いいか」を考えます。その上で演出や表現のイメージを膨らませ、そういった演出や表現を実現できる、あるいは得意とする人にディレクションの依頼をします。

『チェンソーマン』でも同様のことを考えたのですが、原作が今までのジャンプ作品とは異なる色を持っていたため、演出や表現の決まった型を持つ人より、“型を持たない新しい人”にディレクションしていただくことでおもしろくなるのではないかと考えたんです。

そこで思い浮かんだのが中山監督でした。僕が新卒で働き始めた時から、中山監督が優秀なアニメーターであるとは認識していました。アニメーションにおける作画や、制作されていたいくつかのショートフィルムのディレクションがとても素晴らしく、いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていたので、今回がそのタイミングだとオファーしたんです。

――主人公・デンジを演じるのは、TVアニメ初主演の新人声優・戸谷菊之介さんです。中山監督の起用と同様、“決まった型のない人”に演じてもらいたいというのが理由でしょうか。

おっしゃる通りです。“こういう声”という既存作品のキャラクターのイメージから仕上げるのではなく、「デンジはデンジの声」「マキマはマキマの声」として考え抜き、キャスト陣を決めていきました。

そのため、オーディションにはきちんと時間をかけており、声優さんたちにはテープオーディションや立ち合いオーディションなどいくつかの選考を踏んでいただきました。その上でデンジの戸谷さん、マキマの楠木(ともり)さん、パワーのファイルーズ(あい)さん、アキの坂田(将吾)さんに決まったんです。

「新しい人にお願いしたかった」アニメ『チェンソーマン』制作に込められたMAPPAの願い_2
©藤本タツキ/集英社・MAPPA

――キャスト発表の際に「キャラクターの声質と近い地の声質を持つ方を選んだ」とお話しされていたかと思います。オーディション時にはどのようなポイントを意識しましたか?

普段どういう発声をして話すのかを気にかけました。声優さんはオーディション前に必ずスタッフのいるブースに「本日はよろしくお願いします」と挨拶に来てくださるんですね。戸谷さんや坂田さんが「よろしくお願いします」と言った時には、ブースにいるメンバーの中で「可能性のある人が入ってきた……」と緊張感が走ったのを覚えています。