欧米の基準から遅れている日本の法制度

そのドナーとはいくつかの話し合いを重ねた。「誕生した子供にドナーの身元を伝えてもよいか」「子供が会いたいといったら会ってくれるか」など。この「子供がその出自を知る」ことは当然の権利のように思えるが、日本では現在も法的に保障されていない。そもそも医療機関で非配偶者間(第三者)の精子による人工授精(AID:Artificial Insemination with Donor semen)は婚姻夫婦以外に認められていない。

日本産科婦人科学会がそう定めている。よって、婚姻関係にない性的少数者や選択的シングルマザー(シングル女性)にははじめから人工授精の門戸が閉ざされている。

子供を授かったレズビアンカップルが葛藤しながらも子供の顔出しをする理由_03

そうした状況なので、現在妊娠を望む人たちは私的に個人間で精子の提供を行っている。そういったサイトも存在しているし、海外の精子バンクを利用する人もいる。(ごく一部の医療機関は、性的少数者やシングル女性の子供を持ちたいという思いに理解を示し、治療を受け入れてくれるところもある)

個人間の精子提供に関しては、感染症や遺伝性疾患など医学的な面での不安が指摘されている。……と、こう書くと、性的少数者や選択的シングルマザーは自己都合で無謀な計画を実行している身勝手な人と思われかねない。

しかし、前述した通り日本では「医療機関での提供精子を使った人工授精は婚姻夫婦のみ」という方針を掲げているので、そうせざるを得ないのだ。そして、それがいよいよ学会のガイドラインから法整備化される動きになっている。

日本で初めて提供精子を使った人工授精によって子供が誕生したのは1949年(昭和24年)。すでに73年の歴史がある。その間、医療技術は進歩し、グローバル化も進み、インターネットの登場で情報量は増して拡散力も飛躍した。それにともない人々の価値観は多様化、生殖のニーズも多様となった。

現実に即した法案が日本でも検討なされるのかと思いきや、決してそうではない状況なのだ。

出自を知る権利に関しても、ドナーの意思によって開示内容を委ねるといった内容で法規制されようとしている。海外に目を向ければ、スウェーデンやオーストリア、ドイツ、スイス、ノルウェー、フィンランド、イギリス、ニュージーランド、オーストラリアの一部の州などで子供の出自を知る権利が保障されている。こうした国々では、子供が一定の年齢に達したときにドナーを特定できる情報(名前など)を得ることができ、精子提供後にたとえドナーの意向が変わっても覆すことはできない。