大人の「夢」であり「家族」
では、等身大フィギュアはどんな人が購入しているのだろうか。デザインココでは、等身大フィギュアの購入者への自宅まで発送も自社で行っており、「立派な家に住んでいる方が多かった」と大場さんは語っていた。
取材を進め、実際に所有者に話を聞くことができた。
最初に話を伺ったのは、東京都心のマンションの最上階に家族で住んでいる声(こえ)さん。漫画専門店『まんだらけ』のコスプレ店員として活躍したのち、現在はアニメや特撮ソングのコスプレDJをしている。
眺めのいいリビングルームに隣接する声さんのコレクション部屋は、まるでサブカルチャー関連のショップのようにさまざまなグッズが並ぶ。壁には古い特撮映画の大きなポスターが貼られ、数々の書籍や漫画、ビデオ、レコードとともにたくさんのフィギュアやソフビ人形がある。その中でもひと際、存在感を放っていたのが、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイの等身大フィギュアだった。
「等身大フィギュアは大人の夢ですよね。最初はもちろん小さいものしか買えなかったのですが、徐々に大きいものを購入するようになって、最終的に等身大にたどりついた感じです。うちのレイちゃんは13年くらい前に主人が誕生日プレゼントでくれました。値段は当時で50万円ぐらいですね。もらったときはうれしくて、大喜びで鼻血ブーでした(笑)」
そう笑顔で語った声さん。部屋をよく見ると、他にも有名漫画の等身大フィギュアが2体あった。『天才バカボン』のウナギイヌと、『ケロロ軍曹』のケロロだ。
「ウナギイヌは12年前に銀座の松屋で開催された『追悼 赤塚不二夫展~ギャグで駆け抜けた72年~』で注文しました。当時で23万ほどだったと思いますが、ウナギイヌも主人が記念日に買ってくれたんです。ケロロは中古で自ら購入しました。主人とはアニメの趣味は合うのですが、彼にはフィギュアを買って楽しむという趣味は全くありません。苦笑いしながら見ている感じです(笑)」
声さんがフィギュアにハマったのは社会人になってからだという。
「『まんだらけ』でフィギュアやアニメ、漫画に触れて知識を蓄えていきました。同時にコスプレ店員だったので、好きなキャラクターのコスプレをして接客するんですね。例えば、『週刊少年チャンピオン』に連載されていた『がきデカ』(1974〜1980年)のこまわり君、大映の特撮映画『宇宙人東京に現わる』(1956年)に登場したパイラ人、東宝の特撮映画『マタンゴ』(1963年)のキノコ人間、『仮面ライダーストロンガー』(1975年)の電波人間タックル、あとケロロのコスプレもしていましたね。コスプレをしていると、フィギュアやソフビがほしくなって買い始めました」
現在では結婚しふたりの子どもの母親となった声さんだが、コレクションは順調に増えていった。声さんにとって、綾波レイの等身大フィギュアは「家族」だという。
「地震でレイちゃんが本棚の下敷きになってしまったことがあります。揺れが収まった後で、『レイちゃーん!!! 大丈夫?』と思わず叫びました(笑)。その時は奇跡的に無傷で、ホッとしました。レイちゃんは私にとって家族です。中学1年生と小学校2年生の子どもたちは、レイと一緒に育ってきましたし、お友達が家に遊びに来ると必ず紹介しています。みんな最初は苦笑いしていますが、最後は一緒に記念撮影をしています(笑)」
声さんにとって、家族同様に大切な存在である等身大フィギュア。そして声さんとともに今回取材したもうひとりの男性も等身大フィギュアを家族だと語っていたが、その意味合いは少し違っていた。
「等身大フィギュアと結婚したい」というのだ。後編で紹介しよう。
取材・文/川原田 剛
撮影/村上庄吾
写真提供/デザインココ