持続可能な映画祭を模索するSDGsに則った改革
国際映画祭が目に見える形で女性をフィーチャーしているのには理由がある。サンセバスチャン国際映画祭は2019年より応募作品全てを対象としたジェンダー・アイデンティティ・リポートを発表している。
2019年の応募本数は3013本。うち監督の男女比は、男性69.7%に対して女性は30%(ノンバイナリー&ノー・インフォメーションは共に0.15%)。2021年は応募本数3218本のうち、男性68.35%で女性30.33%(ノンバイナリーは1.24%。ノー・インフォメーションは0.08%)。
この割合はプロデューサーら他のスタッフも同様、かつ3年間ほぼ同じ。圧倒的な男性社会であり、監督やプロデューサーといった現場での決定権を持っているのも男性ということを示している。つまりこの構造は、当事者たちが確固たる信念と意思を持って行動しなければなかなか変わらない。
それを強く意識しているのが、サンセバスチャン国際映画祭である。まず映画祭の目玉であるドノスティア賞(生涯功労賞)には、デヴィッド・クローネンバーグ監督と共にフランスの国際派女優ジュリエット・ビノシュに授与。そのプレゼンターには、ビノシュと『エンドレス・ナイト』(2015)で組んだスペインのイザベル・コイシェ監督が選ばれた。
コイシェ監督は、2001年〜2008年にスペインの演劇学校で起こった教師による性的虐待を告発した女性たちのドキュメンタリー『El Sostre Groc(原題)』(2022)を発表し、裁判でも癒えぬ女性のたちの心の傷を世に知らしめた。
また同作の上映に合わせて、映画祭はCIMA(女性映画製作者および視聴覚メディア協会)や(H)emen(バスクの女性映画製作者団体)らとシンポジウムを開催し、男女平等や多様性のある社会を推進させるための調査・報告書を共に作成していくことを発表した。
他にも本映画祭は、映画祭運営に携わる子を持つ女性たちが働きやすいようにと、託児所を設置。レッドカーペットを再利用してエコバッグを作成し、それをフードバンクに寄贈して再利用したり、映画祭カタログの発行を中止してデジタル化、会場外の照明器具をLED電球に変えるなど、SDGsに則った改革を微に入り細を穿っている。
持続可能な映画祭とは何か?
サンセバスチャン国際映画祭はそれを模索し、問い続けている。
取材・文/中山治美