葬儀の後にガイドラインの存在を知った天谷さんの遺族は、火葬場を訪ね、「(自分たちは)濃厚接触者でもなく、PCR検査も受けている」と食い下がった。だが、「拾骨は防護服の着用が義務付けられている」と押し返された。後で再度ガイドラインを確認したところ、そんな内容の記載は存在しなかった。
「母の亡骸は大きなビニール袋に入れられて密閉されていました。特殊な棺桶に入れられて、病院から出棺する際には、顔さえも見られない状況でした。どんな顔でこの世を去ったかも確認出来ていません。霊柩車ではなく、普通のワンボックスカーで事務的に運ばれていきました。そんな状況の中で、葬儀社のスタッフの人達は談笑しながら車のすぐ側でタバコを吸っていたことにも怒りを感じた。葬儀社は、母の遺体に敬意を払ってくれているとはとても思えなく、その態度に一層悲しい気持ちにさせられたんです」
新型コロナによる死亡者を火葬できるのは都内でも少ない
天谷さんの葬儀を担当した葬儀社は、
「基本的に私達は国のガイドラインに沿った葬儀を行っている。それ以上話せることはありません。あとは火葬場さんのご判断に任せている面もあります。今年に入って、去年までとは拾骨の状況は変わってきていますが……」
と話す。
一方の火葬場に取材をすると担当者はこう答えた。
「正直、去年までは拾骨や立会をお断りすることが多かったです。確かに国のガイドラインには『遺骨に感染リスクはない』とありますが、遺族の方が濃厚接触になっていた可能性も高いわけです。火葬は専門的なスタッフが行うため、もしそこでクラスターが発生すれば業務が止まってしまうリスクが生じます。ただし、今年に入り拾骨は希望に沿って可能な限り行うようになっています。これまで遺族の方とトラブルになったという報告もなければ、拾骨に防護服の着用が必須だったという事実もありません」
しかし天谷さんのケースでは、母親はそもそも介護施設に入居している間に感染しており、天谷さんらが濃厚接触者になるわけではない。
新型コロナウイルスで亡くなった者に対応できる葬儀社や火葬場の数は限定的でもある。特に火葬場については、東京都ですら20を切っている。その分特別料金が加算されるため、自ずと遺族はいっそう葬儀に対して厳しい視点を向ける面もある。