ジョブズは1時間以上の坐禅ができなかった
「彼は、しばしば私に『僧侶にしてくれ』と頼むのですが、ダメだと答えています。
なぜって、彼自身も認めているように、とても悪い修行者ですから。聡明すぎるのでしょうか、1時間以上の坐禅ができないんですよ。
しかし、なによりうれしいのは、彼の娘、リサが、私のことをゴッドファーザーと思ってくれていることです。リサは、私が訪ねるといつも駆け寄って来て、日本語で話しかけてくれるのですよ」(乙川弘文談)
プライバシーを神経質なまでに守りきったジョブズが、身内の死というもっとも繊細な出来事を共有した師、それが弘文だった。当時のジョブズは、自ら創業したアップルを驕慢に起因する経営不振で追放され、10年におよぶ不遇をかこっていた只中だった。そのジョブズが、アップル奇跡の復活を果たしたのは96年、法話から3年後。
ジョブズと弘文の濃密な交流は、弘文が亡くなるまで続いた。2002年夏、乙川弘文、布教先のスイスで突然の客死。その報を聞いたジョブズは、さめざめと泣き続けたという。