キャッシュレス化にはプライバシーの懸念も

最近、寺院のデジタル化という文脈で「お賽銭のキャッシュレス化」が話題になることがある。コロナ禍により非接触のキャッシュレス決済が浸透し、それが寺院にも波及した形だ。さらに、銀行に硬貨を入金する際の手数料が痛手となるという、寺院側の事情も影響している。

キャッシュレス決済を導入する寺社仏閣は、2020年ごろから徐々に増えてきた。デジタルへの関心が高い小路さんならお賽銭のキャッシュレス化にも意欲的なのでは……と思って聞いてみたが、意外にも慎重な意見が返ってきた。

まず、そもそも「PayPay」の場合、個人-法人間の送金(寄付など、物品の売買やサービス提供を伴わないもの)は規約違反になるという。また、QRコード決済全般が抱える問題として、悪意のある人によって別のQRコードを重ね貼りされてしまう懸念があり、実際に事件も起きているという。

「プライバシーの問題もあると思います。決済業者は、キャッシュレスのサービスを提供する代わりに、利用者の消費行動を収集しています。お賽銭など信仰に関わるケースでは、その情報収集が問題になる可能性もあると思うのです。例えば、子宝に恵まれるとされる神社に、高額のお賽銭を入れた人がいるとします。もしその情報が入手できれば、業者が妊活などのプロモーションを送るかもしれません。寺院側がそうしたデータ収集に加担するのはどうなのか……という疑問が残ります」

個人-法人間の送金ついては決済業者によって扱いが異なるため、規約上問題ないケースもあるが、いずれにしてもお賽銭のキャッシュレス化に関しては、まだいくつか乗り越えなければならない課題がありそうだ。

コロナ禍は、ほかにも寺院に対してさまざまな変化をもたらした。葬儀も家族葬が増え、四十九日などの法事も取り止めになることが増えた。寺院にとっては、それがそのまま収入減につながった。コロナ前と比べると収入が半減した寺院もあるという。

そんな中、小路さんは「DX4Temples」という事業を起ち上げた。書類のデジタル化や社内事務の効率化、WEBサイトの構築やSNSの運営など、寺院のデジタル化に対するさまざまな悩みに耳を傾け、それぞれの規模に合った解決策を提案するという。

“ワンオペ寺院”を救え! IT寺院エバンジェリストのデジタルお寺革命_5
小路さんが起ち上げた「DX4Temples」のホームページ(https://dx4temples.org
“ワンオペ寺院”を救え! IT寺院エバンジェリストのデジタルお寺革命_6
コロナ禍で遠方から法事に参列できない人のために、善立寺の本堂にはスマートフォン用の三脚を設置。Wi-Fiも完備されているため、「ZOOM」などのビデオツールを使ってオンラインで参加できる

人手不足、膨大な業務、さらにコロナ禍による深刻な収入源。そこに後継者問題なども加わり、寺院の数はどんどん減っているという。これは寺院だけの問題ではなく、日本の風景や人々の生活習慣にも影響を与える大きな問題ではないだろうか。寺院の抱える過酷な状況を乗り越えるには、やはりデジタルの活用が鍵になるのだろう。寺院デジタル化エバンジェリストである小路さんの活躍によって、全国の寺院の抱える負担が少しでも減ることを期待したい。


文/小平淳一 写真提供/小路竜嗣