ファンたちの喜び、しかし……

ファンもまた、小山田氏の活動再開を温かく迎えた。

音楽ライター大久保祐子氏は、そうしたファンの一人として、復帰第一弾の現場となったフジロック、苗場のホワイト・ステージでのライブの印象を報告している

「Mic Check」――小山田氏の音楽の国際的成功の第一歩となった傑作アルバム『Fantasma』(1997年)の最初の曲――によるオープニングが「基本に立ち返るような心意気」を感じさせたこと、この1曲目の間中、ステージを覆う白い幕に流れる映像は「新しい未来のはじまりを期待させるような高揚感」に満ちていたと同時に、「今日は姿を見せずにこのままシルエットのみを照らし出した状態で演奏するのではないか?」との不安が胸をよぎったこと、そんな懸念を払拭するかのように幕が開き、いつもと変わらぬクオリティでライブが進むにつれ、「止まっていた時計がまた動き出すような感覚」を味わったこと……。筆者のように配信を通してライブに立ち会った者を含む数万人が、大久保氏が鮮やかに伝えるこうした感情の揺れ動きを共有していたはずだ。

筆者も現場に居合わせたソニックマニアについては、ライブ終了後の印象的な出来事を紹介しておこう。すべての演奏を終え、小山田氏と2人のサポートメンバー、ドラム担当のあらきゆうこ氏、ベース・キーボード担当の大野由美子氏の3人が、挨拶のため舞台中央前方に集まる。

退場間際、あらき氏は客席を指差して小山田氏に注意を促し、小山田氏はやや引き気味に、しかし愉快そうに笑いながら舞台を後にした。思いがけない知人でもいたのだろうか? あらき氏がのちにツイートした画像からわかったのは、ファン有志が4枚のうちわを掲げ、「お・か・え・り」のメッセージを伝えていたという事実だ。

コーネリアスというよりアイドルのライブにふさわしいとも思えるこうした応援スタイルがミュージシャン側に歓迎され、他の多くのファンにも快く受け入れられたところに、この1年間の小山田氏とファン双方の経験が凝縮されているという気がする。

音楽ライターのドリーミー刑事氏がライブ評の中でこの一件に触れ、そこに「まぶしいくらいに幸せな光景」を認めて、小山田氏とファンの間に「あのトラウマを乗り越えたからこその信頼関係」が育まれた証だとみなしているのには、筆者もまったく同感である。

関係者とファンに支えられ、騒動の大きさを思えば順調に活動復帰を進められたようにも見える小山田氏。しかしフジロック出演を報じる記事がYahoo!ニュースに掲載されるやいなや、コメント欄には少なからず不満の声が寄せられた。

たしかに、大きく報じられた辞任前後の情報がそのまま事実であれば(例えば『報道ステーション』のアナウンサーは、「いじめというよりは、もう犯罪に近い」とコメントした)、わずか1年後に巨大音楽イベントに出演できたことを時期早尚と思われても仕方がないのかもしれない。

こうした無理解の声がある中でも、小山田圭吾氏はなぜ、このように比較的早期に活動再開できたのだろうか。本稿はこの一件に関する基本的な情報と認識の共有を願って書いている。