帝国は多様性を包括する

中田 今、大躍進の話が出ましたが、私も中国といえば文化大革命の犠牲者の話がいちばん頭に浮かびます。ジェノサイドというとカンボジアのポルポトの話もモデルとしてありますね。

ここで少し本来の帝国とは何かということをお話ししてみたいと思います。

中国はもともと帝国ですし、イスラームも帝国ですし、ロシアも帝国であったわけです。我々イスラーム教徒としては、困難な道のりではありますが、今はばらばらになっているイスラームがひとつになって帝国として復活できることがいちばん望ましいことと思っております。それが私が唱えているカリフ制再興です。

帝国とは、もともと多民族を包括するものなので、同化主義はあまりとらないというのが基本です。その意味では、今の橋爪先生の中国の話は、帝国としては非常に邪道なやり方をしているのではないかと思います。帝国ではなく、むしろ民族国家、国民国家のほうに引き寄せて国をつくろうとしているのが今の中国です。

今、橋爪先生がおっしゃったように、新疆地区は地政学的にも非常に重要なので、テリトリーとして手放すことができない。そのテリトリーのかなりの部分がもともと異民族のものであるということは、中国にとっては大変都合が悪いわけです。で、いちおう形の上では異民族と共存するという体制をとりつつ、中身を全部入れ替えて中華民族にしてしまうという同化政策を現在推し進めていると。これはまったく帝国的ではありませんね。

イスラームを例にとると非常にわかりやすいのですが、本来の帝国は多民族・多言語・多宗教・多文化を包括する在り方であるはずで、それをひとつの民族、ひとつの言語でまとめ上げようとするのは、本来の帝国の在り方とは本質的に違います。その意味では、帝国の復活とは言いがたい。

現在、世界の覇権を持っているのが国民国家の理念なので、そちらに引きずられているにしても、今の中国はあまりに強引さが目立ちます。その点につきましては私もまったくそのとおりだと思います。

今の中国の在り方というのは、私の考えているような帝国の復活というところからも大きく外れています。私の考える解決策は、むしろ中国を本来の意味の帝国に戻すことです。

中華秩序の政治理念は儒教の王道です。王道とは仁義の徳による仁政、徳治であり、武力と権謀術数による暴力的支配である覇道のアンチテーゼです。軍や武装警察によって異民族を力ずくで抑え込むのではなく、異民族が政府の徳を慕って自発的に心服するようになるのが王化の理想です。

本来の中国の多民族、多宗教、多文化が共存するような中華帝国の王道に戻していくことができるのかどうか。今のまま中国が強硬策を続ければ、アメリカを中心とする同盟国の武力を背景にする紛争に発展する成り行きが十分考えられますね。この問題の究極は、そういう話につながっていくんじゃないかと思っております。

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中国共産党帝国とウイグル
橋爪大三郎 中田考
中国政府はなぜ、ウイグル人を「抹殺」せずに「洗脳」するのか?_02
2021年9月17日発売
968円(税込)
新書判/272ページ
ISBN:978-4-08-721184-9
大量収容、監視社会、思想改造、強制労働…
新疆ウイグルから香港、台湾へと広がる世界的危機

民族弾圧から読み解く中国リスクの本質

◆内容説明◆
「中国夢」「一帯一路」のスローガンの下、習近平体制以降ウルトラ・ナショナリズムに傾斜する中華人民共和国。急速な経済発展の陰では、ウイグル人をはじめとした異民族に対する弾圧が強化されていた。中国共産党はなぜ異民族弾圧、自国民監視を徹底し、さらに香港・台湾支配を目指すのか? そもそも中国共産党は法的根拠のない、憲法よりも上の任意団体にすぎない。その共産党がなぜこれほど力を持つのか?本書はウイグル問題を切り口に、異形の帝国の本質とリスクを社会学者とイスラーム学者が縦横に解析する。日本はこの「帝国」にどう対するべきか?

第一章 中国新疆でのウイグル人弾圧
第二章 中国共産党のウイグル人大弾圧
第三章 中国的ナショナリズムとは何なのか
第四章 専制君主、習近平
第五章 中国とどう向き合うか
第六章 日本に何ができるのか
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