歳を重ねるごとに収入は着実に減少する

定年後、多くの人が年齢を重ねるにつれて徐々に稼得水準を下げていることにも着目したい。つまり、定年後の所得状況をみると、年収水準は定年前後に不連続かつ一時的に減少するというよりも、むしろ定年前後以降に緩やかにかつ断続的に減少していくというのが実態に近い。

これはなぜかというと、歳を取るごとに自身に様々な変化が起こり、より無理のない範囲で働くよう就業調整をしているからだと推察される。仮に50代でセカンドキャリアに向けて起業をしたとして、優秀な方であれば気力あふれる当初においては事業を順調に営むことができる。しかし、65歳、70歳、75歳と歳を重ねれば、自身の健康面や仕事に向かう気力や体力などに変化が訪れる。やっと事業に目途がたったと同時に、その事業の縮小を余儀なくされることも珍しくない。

あるいは、定年後に嘱託やパート・アルバイトといった形で非正規雇用で就業を続けている人であっても、歳を取るごとに収入をある程度犠牲にしてでも就業時間を制限し、より無理のない仕事に調整することがある。

定年後のキャリアに向けて、仕事で挑戦を続ける姿勢を否定しているのではない。むしろ、多くの人が高齢になってもスキルアップを続けて社会に貢献することは、社会的に好ましい。実際に70歳時点で700万円以上の年収を稼ぐ人は就業者のなかで5.2%と一定数存在している。世の中にあふれている成功体験をみるまでもなく、年齢にかかわらず挑戦を続け、大きな成功を手にする人が存在することは疑いのない事実である。

しかし、現実の収入分布をみると、そういった働き方を続ける人は少数派だとわかる。今後ますます人々の就業期間の延長は進むであろうが、過去からの推移をみても、定年後に高い給与を得る人が急速に増加していくことはこれからも考えにくい。定年後高収入を実現している人は現実的な人数としてはそう多くないのである。

『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社)
坂本貴志
定年後の年収は300万以下が大半⁉️ 歳を重ねるごとに収入水準は減少_3
2022年8月18日
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新書 264ページ
ISBN:978-4-06-528605-0
年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70代男性の就業率は45%、80代就業者の約9割が自宅近くで働く……全会社員必読! 知られざる定年後の「仕事の実態」とは?

漠然とした不安を乗り越え、豊かで自由に生きるにはどうすればいいのか。豊富なデータと事例から見えてきたのは、「小さな仕事」に従事する人が増え、多くの人が仕事に満足しているという「幸せな定年後の生活」だった。日本社会を救うのは、「小さな仕事」だ!
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