──開発の経緯を教えてください。
山形市に住む竹田徹さんという方から、理想の自転車を自作したいから、私たちが2018年に作った世界初のギアクランクシステムを貸してくれないかというオファーが届いたんです。
面識はありませんでした。どうしようと思いながらやりとりをしているうちに、彼は国立大学で機械工学を学び、大手自転車メーカーに就職。開発に携わってきて、今は体調を崩して退職したものの、自転車への情熱がすごいということがわかり、お貸しすることにしたんです。
彼の持論は「日本人には従来の長さのクランクより、足の上下動が少ないショートクランクの方がこぎやすい」というもの。ただし、ショートクランクは、こぎ出しが重いという弱点もある。それを補うのが私たちの作った世界初のギアクランクシステムという話でした。
※クランクとは、ペダルとチェーンを回す歯車を連結させるパーツ
──「世界初のギアクランクシステム」ってなんですか?
「フリーパワー」と言って、サイクルオリンピックのオリジナルパーツの第1号です。宮崎県の発明家・浜元陽一郎さんと共同開発しました。
ペダルを踏み込む力で、ギアに内蔵されたミニドーナツのような形のシリコーンを圧縮し、その反発力を効率よく回転エネルギーに変換するシステムです。上り坂をこぐ際も電動アシスト自転車かと思うぐらいの軽さです。つまり電池の要らないアシストギアです。
──「フリーパワー」をお貸ししてその後は?
お貸ししたのが2019年の冬。すると、数ヶ月後に竹田さんから「すごいものができたから、ぜひ試乗に来てほしい」という連絡がありました。
半信半疑で私を含む社員3人で出向いて乗ってみたんですが、ものすごい衝撃が走りました。自転車が勝手に進む感覚があって、あまりにも快適な乗り味にひっくり返りました。今までにない自転車ができると確信して、その場で仮の共同開発契約を結びました。