紙とえんぴつがあればしあわせです
年齢は20歳~200歳の間。冒険が大好き。メモ魔……。そんな、お茶目で不思議で愛らしい“白髪の国のアリス”こと、イラストレーターの田村セツコさん。
新刊には本誌を可愛く彩ってくださったカラーイラストとポエム(連載タイトル「白髪のアリス 絵日記教室」)に加え、読者が書き込める魔法練習帳、そしてハッピーと人生の滋味が詰まった自伝的エッセイがおさめられています。
「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのよ」。世代を超えて愛される絵を描いてきた田村セツコさんに、お話を伺いました。
イラスト=田村セツコ
聞き手・構成=砂田明子/撮影=イマキイレカオリ
メモを部屋じゅうに貼って、
話しかけています
――1章には本誌に連載いただいたイラストが掲載されています。アイデアはどうやって生まれるんですか?
月ごとにテーマだけは決めていたんですけど、何を描くかは、その時その時に、ふと思いついたものを描くという感じでした。なかなかね、先のプランが立てられないの。落ち着きがなくてバタバタしている性格なので。今考えても汗かいちゃう。だから、一人の子をずっと描き続けられればよかったんだけど、描くたびに顔が変わっちゃったんですよ。
――全てキュートで心躍ります。イラストにはセツコさん自筆のポエムも付いています。メモ魔でいらっしゃるんですね。
私は紙とえんぴつさえあればしあわせ。いつもメモ帳を持ち歩いていて、電車の中でも平気で書いています。「たまねぎ」とか、買い物メモも書くし、交差点で聞いた会話とか、気になったフレーズもパッと書きます。いい言葉って、いろんなところから入ってくるんです。最近の名台詞は「本当の締め切りはいつですか?」。私は締め切りを気にしすぎるんです。いつもプレッシャーなの。あるとき、カフェでお会いした方に「あぁ、こんなことしている場合じゃないわ。締め切りが来ちゃう」って帰ろうとしたら、「田村さん、『本当の締め切りはいつですか?』って、編集者に聞けばいいんですよ」と言われて、えっ! そんなものがあるの? って。私はそういうことわからないのね。驚いたのでメモしました(笑)。
メモは部屋じゅうに貼ってあるんです。それを眺めて笑ったり、話しかけたりしてね。私の心の健康法です。
――幼い頃から現在まで、「日記」も付けていらっしゃいますね。
父の転勤で、小学校を4つ変わっているんです。友達ができたと思ったらお別れ。その頃、日記を書くようになって、日記帳が友達になりました。で、84歳の今まで毎日書いているの。なんでも日記に言いつけるんですよ。アパートの理事会でこんな発言があったのよ、とか。反対意見が出ないからいいんです。たまに読み返すと、私、こんなこと考えてたんだ、すてき! と発見もあるんです。日記は頼もしい味方です。
――エッセイには、一人暮らしをされているセツコさんのちょっとユニークなルーティンが紹介されています。「ゆるく楽しい」生活の秘訣が満載です。
散歩をしたり、座禅組んだり……歳をとった人の生活のルーティンっていろいろあると思うんだけど、そういう落ち着いたひとときはあまりないので、私は歌を歌うようにしています。呼吸もよくなるし、姿勢もよくなるし、血流もよくなる感じ。これも健康法のひとつね。
歌いたくないような気分のときにこそ、歌うんです。楽しいから笑うんじゃなくて、笑うから楽しくなるって言いますよね。何かくさくさして、イヤだなあって思うときに、「Smile」とか「花言葉の唄」とかを口ずさむと、少しだけ気分が変わるの。この懐メロは、1年で銀行を辞めるときに、秘書室のお姉さんたちがお別れパーティーで歌ってくださったんです。なんて綺麗な歌なんだろうと感激して覚えて、今でも歌っています。
人と比べないで、
自分を驚かせてください
―― 銀行員になるも19歳で辞めて、イラストレーターへの道を志されました。その決断を今、どう振り返りますか?
楽しい職場だったんです。でも1年が過ぎた頃、カレンダーを見て、こうやって9時から5時までビルの中にお勤めする人生なのかなって、生意気に考えてしまったんですね。で、窓の外を見たら、ゴミを拾って歩いているおじさんがいたの。自由でいいなあって。あまりにも浅はかな考えだったんですけど。
ちょうど絵の勉強を並行してやっていたので、フリーターになろうかなと思って、一度だけ、絵を教えていただいていた松本かつぢ先生に相談しました。「会社を辞めて大丈夫でしょうか」って。そうしたら「そんなこと、誰にもわからない」。余計なことはおっしゃらず、ただそれだけ。カッコいいお答えだと思ったし、甘ったれるんじゃないよ、と言われた感じがして。決心がつきました。
辞めてしばらくは仕事が全然なくて、出版社の多い神保町は、涙ぐみながら歩いた街です。でも、我慢強く過ごせたのは、誰にすすめられたわけでもなく、自分で決めたことだったから。
――イラストや挿絵、エッセイを描き続けながら、「絵日記教室」も14年続いています。長く続く秘訣は何ですか?
始めるときに、絵の勉強はよその教室でしてくださいということと、子どものように絵日記を描きましょう、と言いました。それから、人と比べないで、自分を驚かせてあげてくださいね、って。年代も職業も、いろんな人がいらっしゃるんだけど、誰一人、同じ絵日記を描く人っていないんです。人の可能性って無限大。私が刺激を受けています。
絵日記を描こうと思うと、モノの見方がちょっと変わってくるんです。もうね、ネタが満載。どこを見ても面白いものがあるし、もし面白くなかったら、なんで面白くないのかしらって、それもネタになる。そんな感じ(笑)。
絵日記には、必ず「日にち」を入れてもらっています。今日という日は、昨日でも明日でもない、特別な日だから。日記を描かなくても、そうよね。
―― この本にも、絵日記や塗り絵など、読者が参加できるページがたくさん用意されています。セツコさんの見本付きなので、楽しんで描けそうな気がします。
編集のトマトさんの情熱で、描きやすいように、そこだけ紙を変えているんです。ぜひ読者の方にノリノリになって参加して、楽しんでいただきたいですね。