それから数十年。数々の事件に関わる中で編集技術はもちろん、考え方やものの見方も磨かれていったと話す宮村氏。ここからは彼が目の当たりにしてきた、大事件簿の話に移行する

メディアの前で惨殺された永野会長

豊田商事事件は、1980年代前半に発生した、悪徳なペーパー商法を手口とする詐欺事件です。高齢者を中心に全国で数万人が被害に遭い、被害総額は2千億円近くともいわれていました。強引な勧誘によって契約させられ、老後の蓄えを失った高齢者が大勢いたのです。

このことが大きく社会問題化しだしたのが、1985年(昭和60年)でした。そしてこの年の6月18日に、衝撃の事件が起こります。

この日、豊田商事の会長、永野一男(当時32歳)が住んでいた大阪市北区天神橋のマンションの玄関ドアの前には、逮捕間近といわれていた永野会長の姿を捉えようと、大勢のマスコミがカメラを構えて陣取っていました。永野会長は部屋に籠り、姿を現しません。報道各社の玄関前での張り込みは24時間体制でした。

マスコミが張り込みを始めて3日目、突然2人の男が現れます。男たちは永野会長が雇っていた警備員と押し問答をしつつ、マスコミのインタビューにも答えていました。

すると突然、男の1人がパイプ椅子でドアを叩きつけ始めました。ドアが開かないとみると、今度は窓の柵をつかみ、足で柵や窓ガラスを蹴破りだしました。

惨殺されたシーンを淡々とマスコミは撮影し続けた~豊田商事会長刺殺事件_3
永野会長宅のドアをパイプ椅子で叩く2人組の男。手前が飯田篤郎、奥の黒シャツが矢野正計

その後、男2人は部屋に押し入り、そこにいた永野会長を持っていた刀のようなもので滅多刺しにし、惨殺したのです。この一部始終を目の当たりにしていた数十人のマスコミ陣は、無言でカメラを回し続けていました。

編集に届けられたこの映像を見た時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。画面の中で繰り広げられる出来事が、映画のワンシーンのように目に映りました。第一報の放送では、血まみれの犯人や刀、そして刺された永野会長の姿を放送したと記憶しています。しかしあまりにも凄惨な映像だったため、すぐに生々しい映像は流さなくなりました。