「MCバトルは間口の広い世界一面白いコンテンツ」
ライミング(韻を踏むこと)やフロウ(言葉の抑揚やメロディ)という、聴感を刺激するラップの根本的な技術力はもちろん、相手の言葉にどう切り返すかという瞬発力や、その人自体のキャラクター性など、様々な要素をもとに戦うMCバトルのアートフォーム。そこで生まれる、罵り、言葉尻を捕らえ、友情を確かめ、互いへの理解を深めていくドラマ性も相まって、若年層を中心に非常に高い人気を集めている。
その活況について、00年代よりMCバトルシーンに関わり、日本初のMCバトルを専門に扱う会社『株式会社戦極MC』を立ち上げ、上記の『戦極MC BATTLE』などの運営に携わるMC正社員氏は、「MCバトルは世界一面白いコンテンツであり、人気になったのは必然」と話す。
「MCバトルは音楽であり、口喧嘩であり、大喜利であり、ディスカッションであり、ドラマでもあるんですよね。そんなに幅広い要素をいっぺんに盛り込んだコンテンツが、面白くないわけない」
その多様性は、MCバトルの門戸の広さにも繋がっているという。
「MCバトルは本当に誰でも参加できるんですよね。例えば、格闘技やスポーツだったらフィジカルの能力が求められるし、勉強だったらIQとか教育資本がそこには関わってくる。でもMCバトルは、ラッパーはもちろん、不良でも、サラリーマンでも、医者でも、アイドルでも、学生でも、大人も子供もジェンダーも……そういった“属性”に関係なく、ライムする、フロウするというラップの基本さえできれば、もっといえば技術がなくても“ラップしよう”という意思さえあれば、誰でもエントリーできるんです」
具体例を挙げれば、日本テレビ系で放送された、アーティストのSKY-HIが手掛けるボーイズグループオーディション「THE FIRST」に参加したTAIKIは、小学生の頃からラッパーである父親とともにMCバトルに参戦していた。
またTik Tokで話題を集める女性ユニット「ルイとKT」のKTは、制服姿の女子高生というキャラクターで『高校生RAP選手権』に登場したが、それまでMCバトルの実戦経験はなかった。
「今日からラップを始めた人でも参加できるし、その人が実はとんでもない才能を秘めてて、いきなりベテランに勝つ可能性もある。そしてその裾野は、バトルが定着したことで、どんどん広がっているんですよね」
一番顕著な広がりといえば、ACジャパンのCMに、現在のMCバトルシーンのトップランナーともいえる呂布カルマが登場したことだ。コンビニのレジでまごついてしまう高齢の女性に対して「何も気にすんな 自分らしく堂々と生きるんだ」とラップで呼びかけ、それに対して女性も「焦ったらまさかの優しい発言 アタシも反省見た目で判断」と返す、「寛容ラップ」(https://www.ad-c.or.jp/campaign/self_all/self_all_01.html)がネットでのバズも含めて、強い関心を集めた。
「本当に素晴らしいCMだったと思うし、ああいったコンテンツはまだ広がっていくと思いますね。そして呂布カルマさんのような人が増えれば、もっとMCバトルからヒーローが生まれるだろうなって」