執筆中、つい頭をよぎる「撮るの難しいかな……」

映像化は本を売るための最大のプロモーション。『アキラとあきら』池井戸潤_7
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逆に、映像から受けた印象が、小説のインスピレーションを呼び起こしたり、執筆に影響を及ぼしたりはしないのだろうか?

「そうですね……たとえば今、箱根駅伝を題材にした小説を連載しているんですが(「週刊文春」連載『俺たちの箱根駅伝』)、これも映像化されたらいいな、という考えがよぎることもありますね。そうすると、レース当日に大雪が降るとか、冷たい雨に打たれて予想外の事態が起こるとか、小説ではおおいにありうるシチュエーションですが、アイデアのリストから外してしまおうかと思ったりする。“雨が降ると撮影、大変だろうなぁ”とか(笑)。台風、大地震、噴火なんかもそう。原作者の温情?というか、逆にそんな自然災害が起こらなくてはならない理由もないといえばないんですよね。だったら、あえてそこでハードルを上げずに、あらゆる意味でもう少し汎用性の高い場面設定のほうがふさわしいんじゃないかと」

原作者と映像チームの水面下の駆け引きもまた、新しいクリエーションのきっかけに。池井戸氏の楽しげな笑みからも、まだまだ新しい名場面の種が眠っていそうな予感がする。

「そうですね。まずは小説を楽しみに待って読んでいただけると、作家としてはありがたいです」

取材・文/大谷道子 撮影/石田壮一

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『アキラとあきら』(2022)上映時間:2時間8分/日本

映像化は本を売るための最大のプロモーション。『アキラとあきら』池井戸潤_8


父親の経営する町工場が倒産し、幼くして過酷な運命に翻弄されてきた山崎瑛〈アキラ〉。大企業の御曹司ながら次期社長の椅子を拒絶し、血縁のしがらみに抗い続ける階堂彬〈あきら〉。運命に導かれるかのごとく、日本有数のメガバンクに同期入社した2人は、お互いの信念の違いから反目し合いながらも、ライバルとしてしのぎを削っていたが、それぞれの前に〈現実〉という壁が立ちはだかる。〈アキラ〉は自分の信念を貫いた結果、左遷され、〈あきら〉も目を背け続けていた階堂家の親族同士の骨肉の争いに巻き込まれていく。そして持ち上がった階堂グループの倒産の危機を前に、〈アキラ〉と〈あきら〉の運命は再び交差する ‒‒‒‒。

配給:東宝
8月26日より全国公開
公式サイト:https://akira-to-akira-movie.toho.co.jp/
©2022「アキラとあきら」製作委員

池井戸 潤 いけいど じゅん
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞、2020年に野間出版文化賞を受賞。『半沢直樹』をはじめ数々の作品がドラマ化され人気を博し、映画化された作品に『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』がある。映画『アキラとあきら』は8/26(金)全国公開。また10/9(日)22時からWOWOW連続ドラマWで『シャイロックの子供たち』が放送開始。23年には、同じ原作をもとに別プロダクションが手がけた映画の公開が決定している。