銭ゲバ、美味しんぼ、ハレンチ学園、ドラえもん
一般的に、マンガやアニメから広まっていく言葉にはどんな特徴があるのだろうか。
「『概念はあるけど、それをうまく言い表すことができなかった』という言葉が作品の中に登場すると、一般化しやすいですね。決して作者は流行させようとして言葉を作ったわけじゃないけれど、ちょっと出てきただけで読者が覚えて使うようになる。
『こういう表現を求めていたんだよ!』ということでまずは仲間内で広がり、それがだんだん一般化していく……言葉はそうやって広まっていくことが多いんです」
たとえば、金のためなら手段を選ばない人のことを『銭ゲバ』と呼ぶようになったのも、ジョージ秋山のマンガ『銭ゲバ』(1970年〜)から。
「『銭ゲバ』という短いフレーズで、『金のためなら手段を選ばず悪いことでもする人』のことを端的に表すことができる。このマンガが生まれた70年代は学生運動の全盛期で、『ゲバ』はゲバルト、つまり闘争、実力行使のことです」
さらに、もとからあった言葉にマンガが新しい用法や意味を与えるケースもある。代表的な例が「究極」だ。
「『究極』の本来の意味は『物事を推し進められるだけ推し進めて行き着くところ』だったわけです。ところが『美味しんぼ』(1983年〜)では、これ以上ない最高のラーメン、という意味で『究極のラーメン』という使われ方をする。実際、1986年にはこの『究極』が新語・流行語大賞を受賞しています。マンガ発の言葉という意味でも、非常に話題になりましたね」
また「破廉恥」も、もともとは『恥知らず』『厚顔無恥』のことだった。たとえば政治家が選挙の公約を破ったときなどに「あの政治家は破廉恥だ」という言い方をしていた。それが永井豪『ハレンチ学園』(1968年〜)の登場によって、エッチなことを指して「ハレンチ」と言うようになったという。
このほか、今回の『三省堂国語辞典』第8版では、新たに「どこでもドア」も追加された。
「『なんでマンガの言葉を載せたんですか?』とよく聞かれますが、『どこでもドアで〇〇に行きたい』というのはもう一般文章で説明もなく使われているわけですね。この言葉が生まれるまでは、空間の自由な移動をうまく表す言葉がなかった。『ドラえもん』が読み継がれていく限り、この言葉もずっと残っていくんじゃないかと思います」