前市長からの熱いラブコールに応えて
いまや全国の各自治体で過熱化が話題となっているふるさと納税の返礼品だが、その中でも異色といえる小説単行本のセレクト――そもそも、歴史・時代ものを執筆し実績のある赤神諒氏に注目した前市長・首藤勝次氏から竹田市を舞台にした新作を書いてもらえないかと提案されたことがきっかけだという。
「私の作品に豊後(今の大分県)の大友氏を描いた『戦神』があり、それに感銘されたという首藤さんが“大友サーガ”とされる一連の作品もお読みになって、この作家に書いてほしいと。地元出身の方が銀座でやられているお店で美味しいお酒をいただきながら、熱く口説かれました(笑)」
その数日後には資料がどっさり送られてきたとのこと、それをきっかけに執筆中の作品のクライマックスが竹田のとある場所にハマッたことでも縁が繋がり、新作の書き下ろしを決意。『小説すばる』(集英社)での連載が2020年3月にスタートした。その間に赤神氏は竹田市の「文化大使」にまで任命されていた。
「人口が2万人まで減少する中、文化で復活させたいという前市長の見識であり心意気に私もすっかり惚れてしまって。今では隈研吾さんの設計建築をはじめとして現代建築の聖地とも言われるほどですが、そういう文化的関心があちこちに染みついてる場所なんです」
そう語るほど、竹田市は知られざる魅力の宝庫であったというが、新作は江戸時代初期、豊後国竹田藩で起きた城代一族の大量殺人事件を背景にその遺児である主人公・山川才次郎が素性を隠して故郷の地に戻り、敵討ちを期すという物語。仇(かたき)と狙うは、叔父で“はぐれ鴉”とあだ名される風変わりな家老・玉田巧佐衛門だが、その人となりを知るにつれ惹かれていき……。
事件の裏では藩の存続に関わる隠された驚愕の真実が!?というミステリー仕立ても興味をそそり、ページを繰る手がとまらぬほどの面白さ。その藩ぐるみで隠蔽されていた謎こそ、竹田を中心とする豊後・大分の地に伝承される“隠しキリシタン”の存在だった。
「資料を読んで、隠れキリシタンではなく“隠し”なんだと知った時、これを最大の謎にするしかないと。そこから現地取材に何回も通わせてもらって、100%に近い自信を持っていろいろなディテールを作品に織り込めました。前市長はじめ地元の方たちにも全面的に協力してもらい、逆に半分も使えていないほど(笑)」