インフレ下、なぜ日本は政権支持率が高いのか?

――インフレ抑制に躍起になるFRBにならって世界の中央銀行が軒並み引き締めに向かうなか、日銀だけが緩和持続を表明し、蚊帳の外にいるのは解せないのですが……。

FRBは景気を犠牲にしてでも、とにかくインフレを止めたい。政策金利が1%になっただけで、米国株がこれだけ下がってしまっています。これが3%になったときにはどうなるのか。

しかもまだFRBのバランスシートの縮小であるQT(毎月保有の米国債300億ドルを市場に売却)は6月から始まったばかりで、9月からはこれを毎月600億ドルまで引き上げます。さらにMB(住宅ローン担保証券)の毎月350億ドルの売却も待っています。

日本だけがかたくなに緩和を維持するということは、残念ながら日本の資金が米国株を買い支えているようなものです。これは個人投資家が……という意味ではなく、今回のキャリートレード(金利の安い国でお金を調達し、金利の高い国で運用する)の流動性の供給元が、実質的に日銀になってしまっているということです。

これでもし日銀が金融引き締めに転じたら、米国株の崩壊を加速させるのは確実でしょう。いま投資家たちは、ただ同然の金利で日本円を借りて、米国株に投資している。この円キャリートレードによって、米国株の下落は和らいでいるはずです。

――日本銀行の黒田東彦総裁は6月6日、東京都内で講演したとき、商品やサービスの値上げが相次いでいることに対し、「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との見解を示しました。これを聞いた日本の消費者たちは「ふざけるな!」と一斉に反発したのですが、この件に関してはどう捉えていますか?

黒田総裁の誤解を招くような話し方も悪いかもしれませんが、正直、私は日本人全体も悪いと思いました。欧米人と同じように、日本人はもっと政治的なプレッシャーをかけるべきなのです。

物価高が止まらないインフレ状況にもかかわらず、政権の支持率が高いなどということは、欧米ではあり得ません。そういう意味で日本は異常だと言わざるを得ない。普通の国ならば、物価高でガクッと支持率を落とした政権トップは、中央銀行総裁にすさまじい圧力をかけるものです。

ただ、このところの円安は日本株には追い風にはなっています。でも一方では、国際的には日本の資産が安くなっているわけで、外国人が日本の資産を買い漁る原因にもなっています。

聞き手/加藤 鉱(作家・ジャーナリスト) 写真/shutterstock

エブリシング・バブルの崩壊
エミン・ユルマズ
世界的なインフレと株価暴落。「エブリシング・バブルの崩壊」が始まった!_2
2022年3月25日発売
1,760円(税込)
四六判/256ページ
ISBN:978-4-08-786135-8
コロナ禍で空前の金融緩和が行われて3年。インフレ懸念、利上げの必要性を叫ばれてきたが、いよいよ2022年は、FRB(米国の連邦準備理事会)の方針大転換で、3月から利上げが始まり、世界経済のフェーズが変わる。
米国のインフレ率は、2022年1月で前年比8.6%に達し、食料や生活用品が値上げされているばかりか、賃金も上昇している。
しかし日本では、思うように賃金が上がらず、物価の上昇だけが先行する不況下のインフレ、すなわちスタグフレーションが懸念されている。
また米国が撤兵したアフガニスタンの混乱や、ウクライナへのロシア侵攻の懸念など、地政学リスクが増大することによって、原油や天然ガス、小麦などのコモディティ価格が上昇し、ますます世界のインフレに拍車をかける状況となった。
一方、世界経済の牽引車だった中国は、恒大集団の実質的な破綻など不動産バブルの崩壊がささやかれ、景気の後退が懸念されている。
こうした様々な世界経済のほころびが明らかになった2022年、上昇しすぎた世界の株式市場や不動産市場はどうなるのか? 
今後の世界経済はどのように展開していくのか?
すべてがバブルと思われるほど価格が上昇したいま(2022年春)、リーマンショック以上の世界経済の崩壊(!)が近づいていることを、著者は深く懸念している。
さらにサイバーセキュリティへの懸念や暗号通貨の広がりなど、グローバル化、デジタル化した世界経済ならではの、新しい問題についても警鐘を鳴らしている。
著者は、こんなときだからこそ、日本に世界の資金が集まるチャンスとも言う。
投資をする人も、そうでない人も、世界経済の大転換期に入った今、是非読んでおきたい一冊である。
amazon 楽天ブックス honto セブンネット TSUTAYA 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon

『目が離せない米国の利上げとリセッションの行方、日本株で有望な投資先は?』 記事はこちら
『ウクライナ情勢に資源高、世界的なリセッションを睨んだ「資産防衛法」』 記事はこちら