全打席ホームラン狙い。方向はレフト。
私が巨人の打撃コーチをしていた頃だったろうか。2軍の試合で、まだ若い頃の山川を見たことがあった。当時は、先輩である中村剛也のスイングを真似ていた。構えたときのグリップはやや低く、ボールを呼び込んでは身体をコマのように回転させて叩く。
野球選手としては同じ小柄なスラッガー(山川は176㎝、中村は175㎝)ということで真似ていたのだと思うが、当時はまだ一発狙いのホームランバッターの卵だった。
その後、だんだん進化して現在のような、バットを高く構え、振り下ろすようなスイングスイングで1軍に登場してきたのだが、今ではもう中村を超えたといえるかも知れない。
その要因は、もちろんパワーである。小柄でも100キロ超えた体重を最大限に利用して、ボールに体重をしっかりと乗せて打っている。
ただ私が着目するのは、そのパワーより、山川が、およそ4番バッターらしくないホームランバッターであるということだ。
ここからは技術面より、データで説明した方がわかりやすいだろうか。山川の今季ここまでのホームラン数はパ・リーグ断トツの29本。その打球方向はレフトが20本、センターが6本、そしてライトが3本である。
レフト方向だけで20本だから、典型的な“引っ張り型”の打者といえるだろう。おそらく3本のライト方向も、自分では引っ張ったつもりが、結果、ライト方向に飛んだだけだと思われる。
意識は常にレフトに引っ張る。これはスラッガーとして台頭してきてから変わらぬ、彼の身上を表してもいるのだろう。この点については4番らしいバッターといえる。
ただ、引っ張り型のホームランバッターは今の日本野球ではホームランの量産は難しい。かつての落合博満、村上宗隆もそうだが、それぞれ“逆方向”にもスタンドインさせられるテクニックがあって、はじめて量産できるのだ。その点、山川は異色といえる。
ではなぜ引っ張り型の山川が、これだけの結果を残しているのか? いくつかのデータを見ると、その理由が浮かんでくる。