賢人イニエスタも、一人の人間

監督が交代を命じた選手に手を指し伸ばし、その返しを要求するのはエゴの一部である。あるいは心からの労りの場合があったとしても、封建的な関係が滲む。

時として、とても尊大に映る悪手だ。

海外の有能な指導者は空気を読む。怒りをため込んでいる選手の去り際には、むしろ取り合わない。不満分子になるなら改めて対話するが、健全な集団では、「あの時は熱くなってしまった」と反省する選手がほとんどだ。

一過性の出来事を周りが誘発させ、煽り、「子供に見苦しい」ともっともらしい”お叱りの言葉”を吐き、何の意味があるのか? 真面目さや勤勉さは悪いことではない。安易なモラルの押し付けは、スポーツ自体をつまらなくするだけだ。

賢人イニエスタも、一人の人間である。目の前の一戦に人生を懸けて熱く戦い、それが交代でややネガティブな方に出たのだろう。「年齢を考えて次もあるから温存」というベンチの判断を頭ではわかっていても、「今日はせっかく、いいプレーができているのに」という口惜しさで…。

「戦術的な交代。イニエスタも、大迫も勝利に貢献してくれた」

監督がそう軽くあしらえば、十分の一件だったと言えるだろう。

取材・文/小宮良之 写真/Getty Images