真のチャンピオンとしてのメンタリティ

そのイニエスタが、交代後に何かを軽く蹴った――。

試合全体を見れば、情状酌量の余地があるのは分かる。イニエスタは前半から何度となく、神がかったスルーパスを通している。クロスに入り、ゴールにも迫った。後半に入っても攻撃をけん引し、相手ディフェンスが寄せられないポジションを取ってプレーメイク。高い位置でボールを持つと、ワンツーを使いながら次々と守備を篭絡した。

それでも交代を命じられることになった。スコアレスのまま、ピッチを去らざるを得ない。その無念さに身を捩り、衝動を抑えられなかった。

「試合で負けて一番怒っているのは、実はアンドレス(イニエスタ)だよ。温厚そうに見えるし、それがアンドレスだが、勝負事にはなかなか折り合いをつけられない。だからこそ、彼は真のチャンピオンなんだ」

かつて神戸を率いたファン・マヌエル・リージョはそう語っていたが、今回の”小さな事件”の真相は、この証言にすべて集約されている。

負けず嫌い、勝者のメンタリティ、王者の資質、呼び方はいろいろあるが、勝ち進んでいく選手は、”敗北”を強く憎む。ここで言う敗北とは試合の負けもその一つだが、自分のプレーが思うようにチームの勝利に直結しない、など、ふがいなさ全般を指す。その反発心は、裏返せば虚栄心のようにも受け取られるが、うまくいかない自分を許さないことでプレーを叱咤し、さらに進化を遂げられるのだ。

無論、そのプロセスで直接的な悪意をぶつけてはならない。審判に頭突きをしたり、監督の胸倉をつかんだり、同僚選手を殴ったり、敵に対して罵詈雑言を喚き散らしたり、人への「暴力」は言語道断である。引かれるべき一線はあるだろう。