参院選後に発足予定の「菅派」が台風の目に
総裁選に向けての布石めいた動きはすでに出ている。たとえば、岸田首相は参院選公示直前の6月20日、菅義偉前首相の事務所をわざわざ訪れて会談している。物価高対策と参院選対応で意見交換したとされるが、参院選後についても話し合ったとみるのが常識だろう。
一方、安倍元首相も岸田―菅会談の20日ほど前に菅前首相夫妻と安倍夫妻の4人で夕食を共にして参院選前に親交を深めたと言われる。
無派閥を通してきた菅元首相だが、参院選後に自身を慕う無派閥議員を中心に25人規模の勉強会を発足させる予定だ。
勉強会には河野太郎党広報本部長、小泉進次郎前環境相、さらには将来、二階派を引き継ぐとされている武田良太前総務相らも参加の意向を見せている。
勉強会が発足すれば、非主流派の二階派(42人)、森山派(7人)結集の軸になると目されており、事実上の菅派として自民党内の一大勢力となる。
この菅グループが参院選後にどのような動きを見せるのか? 岸田政権に協力する姿勢を打ち出すのか、それとも安倍派と連携して次期総裁総理候補を担ぐ動きをするのか、あるいは独自の立場から河野太郎広報本部長などを総裁候補として担ぐのか。それによって、岸田政権の先行きは大きく変わりかねない。
この岸田、菅会談の直前にはこんなせめぎ合いも起きている。
6月17日、岸田政権は突然、留任確実と見られていた島田和久防衛事務次官を交替させる閣議決定を行った。後任次官には島田氏と同期の鈴木敦夫氏が就任したが、同期から次官が二人出るというのは極めて異例の人事だ。
島田氏は安倍元首相の首相秘書官を6年半も務めたキャリア官僚で、防衛事務次官時代は安倍氏の持論であるGDP2%水準までの防衛費増額の旗振り役を果たしてきた。
安倍元首相はもちろん、実弟の岸信夫防衛大臣も島田留任を望んでいただけに、この閣議決定は岸田首相による「脱安倍」の狼煙のひとつと永田町では受けとめられている。
自民党内ではすでに参院選敗北がないことを前提に、こうした選挙後の主導権争いが始まっているだけに、今後も同様の派閥間抗争のような動きは強まるだろう。
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以上が、狙撃事件直前に私が書いた原稿である。この原稿の大前提は安倍元首相が自民党内最大派閥の領袖として、大きな政治的影響力を党内に行使しているということだ。
ただ、今回の事件でその前提が揺らぐことになる。安倍元首相の死去を受けて、安倍派内では次期領袖の座をめぐってリーダー争いが始まるだろう。
派閥内には下村博文前政調会長、萩生田光一前経産相、稲田朋美元防衛相といった有力者がいるが、安倍元首相が後継者を積極的に育成してこなかったこともあり、いずれも力不足は否めない。後継者争いは混とんとするはずだ。
自民党幹部の一人は「安倍さん亡き後、安倍派の存在感が薄れていくのは不可避だ」と指摘する。そうなると以前、同派閥の会長を務めていた細田博之衆議院議長が派閥に戻り、会長を務めればよいのでは、との声も聞こえてくるが、一連のパワハラ・セクハラ問題があるだけに、どうだろうか。