身体を動かすことで心にアプローチするヨガの考え
最近、友人や私のヨガレッスンにいらっしゃる方の中にも軽い不眠症や気分の落ち込みを相談する人が増えてきています。これはメディアなどで「テレワークうつ」と呼ばれているのと同じ状態。うつ病ほどではないけれど、得体の知れない不安感に襲われる心の不調です。とくに家の中に話し相手がいないひとり暮らしの人に多いようです。かくいう私もひとり暮らしで、一日誰とも会話しない日も珍しくなく、「まずいな」と思うことがあります。心身の不調が大きくなってから改善するのは大変ですので、小さいうちに予防できるように、気をつけていきたいものです。
そこで今からでも実践できる、ヨガによるテレワークうつ予防法を紹介したいと思います。
でもその前に、なぜヨガがテレワークうつ予防に良いかというお話をさせてください。
ヨガは、ダイエット目的のエクササイズや健康法の一つと思われる方も多いかもしれませんが、古来では心をととのえることを目的としていました。これは以前に坐禅をしに行ったお寺で私が聞き、すごく納得したのですが、「心がととのう」の「ととのう」を漢字では「整う」ではなく「調う」と書くそうです。バランスが取れて調和しているという意味ですね。「心」は精神やメンタルと読み換えていただいても大丈夫です。
紀元前のインドでは、ヨガは王族や貴族など、カースト上位の男子のみが行なえる特別な修練法でした。そして、仏教の開祖である釈迦 (ガウタマ・シッダールタ)も、王族に生まれ、ヨガを学んで実践し、悟りを開いたといわれています。そのころのヨガは今のように運動のようなものではなく、瞑想が主でした。「ヨガ(yoga)」は、インドの古い言葉であるサンスクリット語では「ヨーガ」と発音し、「つなぐ」という意味があります。心と体(呼吸)をつなぐ、という意味です。感情や周りの状況に振り回されて疲弊するのではなく、どんなときも調和のとれた自分らしい状態でいること、と私なりに理解しています。
とはいえ、急に心を調えましょう、集中しましょうと言っても、あれこれと感情や考えごとが次々と湧き上がって、なかなか急にはできないものです。例えば緊張する場面で、「緊張してはいけない。リラックスしたい」と考えても、ますます緊張してしまうでしょう。ここで、「ひとまず目を閉じて、深呼吸しましょう」というのがヨガのアプローチです。体の動き(小さいですが、呼吸も体を動かすことです)を通して、間接的に心に働きかけて、緊張をほどいていく。これがヨガの考え方です。
自宅で簡単にできる三つのポーズ
それではシーン・目的別にお勧めのヨガポーズと呼吸法をご紹介します。ヨガマットや着替えは不要ですし、気軽な気持ちで試してみてください。呼吸は、鼻から吸って吐くようにしてみましょう。
A・下向きの犬のポーズ……「起きてすぐ」や「リフレッシュしたいとき」にお勧めのポーズです。
1) 膝をついて上体を前に倒して両手をなるべく遠くにつき、背中と脇の下を伸ばします。膝の真上にお尻がくることが大切です。(子犬のポーズ)
2) 腰を引き上げ、かかとを床に下ろす。体の背面の伸びを感じながら3~5回呼吸キープします。
身体の硬い人は無理をせず、膝をゆるめてもよいです。
B・針の穴のポーズ……「リフレッシュしたいとき」や「長時間座ったあと、寝る前」「腰痛予防」にお勧め。
1) 膝の角度が90度になるようにし、背筋を伸ばして椅子に座ります。左脚を持ち上げ、外くるぶしを右脚の太ももの上に乗せます。
2) 左脚の膝を軽く押さえながら、上半身を前に倒します。背筋は伸ばしたままです。左のおしりの奥が気持ち良く伸びていればOKです。伸びを感じながら3~5呼吸キープします。脚をいれかえて、反対側も同様に行います。
寝転んでもできます。仰向けになって膝を立ててから片脚をかけ、脚を手で胸のほうに引き寄せます。
C・仰向けの合せき(足の裏を合わせる)のポーズ……「寝る前」にお勧め
1) 仰向けになり、両膝を立てます。
2) 両方の足裏を合わせるように、膝を左右にひらきます。両手は頭の上に伸ばし、反対の肘をつかみます。両手は頭の上に伸ばし、反対の肘をつかみます。肩周りや股関節が緩んでいくのを感じながら3~5呼吸キープします。肘を掴むのが辛ければ、万歳の形や真横に伸ばしても構いません。
D・呼吸法……「白熱した会議のあとなど、一旦落ち着きたいとき」「リラックスしたいとき」「お風呂の中」「電車の中で」
1) 床でも椅子でも構いませんので、どっしりと下半身を安定させ、背筋を伸ばして座ります。手は太ももの上におくか、胸の前で合掌します。
2) なるべくゆっくり鼻から息を吐いて、お腹をへこませます。
3) 鼻から息を吸って、お腹を膨らませます。肩が上がらないようにしましょう。繰り返します。慣れてきたら、3では、お腹の力を抜くだけにして自然に息を迎え入れ、「ゆっくり吐く」ことだけに集中しましょう。
通勤代わりの散歩も
テレワークうつの対策としては、ヨガだけでなく、オンとオフを上手に切り替えることも効果があります。
私が実践しているものでは、朝起きると通勤の代わりに近所を10分程度散歩します。そのあと簡単にヘアメイク。私はまつ毛が上がると気分もあがるのですが、このように自分の気分をあげる方法を知っておくことも大切です。それから、タイトスカートにシャツなど、オフィス服に近い服に着替えます。ベルトなど、適度な窮屈さは、気持ちもシャンとするものです。派手なデザインや色など「会社には着ていけないけれど自分のテンションがあがる服」を着るのも、秘密の楽しみのようでお勧めです。
仕事終わりは、まずは心の中で「閉店!」と宣言してから、PCを閉じてしまいます。服を着替えてメイクも落としたいので、夕食前にお風呂に入ることも多いです。お風呂は、一気に心身の緊張をゆるめ、副交感神経を優位にしてくれます。お湯の温度が熱すぎるとシャキッと目が覚めてしまってかえって逆効果ですのでご注意ください。
最後に、「マインドフルネス」という瞑想の方法があります。いまここで起きている出来事に集中し、良し悪しをジャッジせず、受け止めることです。いつ終わるのかいまだ先が見えないコロナ禍ですが、過ぎた過去に執着せず、曖昧な未来の心配をせず、いまここにある自分自身を満たし、今日の1日を過ごすことに集中しましょう。いま元気な方も、そうでない方も、明るくクリアな気持ちになれますように。