職人も老舗も、突然の依頼に「本当に?」
公演では、奈良の歴史や文化をステージの外にも広げようと、地元企業とのコラボレーションにも力を入れた。チームとスタッフが直接アプローチしたのは、奈良県内の企業や店舗だけで50以上。その土地の技術や名産を取り入れたグッズが数多く作られた。
そのひとつが、吉野の木を使ったコラボグッズを手がけた合同会社樹匠だ。同社には春ごろ、ウェブサイトの問い合わせフォームに連絡があった。「最初は詐欺メールかと思いました。奈良にそんな大きなライブ会場はないですし」と担当者は振り返る。
吉野檜製の『歌詞おみくじキーホルダー』や吉野杉製の箸、抽選販売の手桶などを制作。会場を飾った灯籠も手がけた。
「『奈良時代にちなんだ小さな灯籠』という依頼で、東大寺の八角燈籠を見に行き、それを模して試作しました。しばらくして『この3倍くらいの大きさに』と言われ、ん? 3倍? 体積……じゃないよな、寸法だよな……と」(樹匠の担当者、以下同)
大型化すれば材料も加工の手間も増えるが、予算には限りがある。そこで屋根の形を簡略化し、大極殿などを参考に飾りを加えた。檜板の反りが上を向くよう、取り付け方も工夫したという。
「担当の方から夜中にも普通にメールが届くんです。まさに『ずっと真夜中』な業界だなあと(笑)。どうかご自愛いただきたいです」
1854年創業と老舗の砂糖傳増尾商店も、初のアーティストとのコラボに「なぜうちに?」と半信半疑だった。奈良の企業の魅力を伝えたいという説明を聞き、参加を決めた同店は、定番商品である金平糖「奈良こんふぇいと」の限定味を提案した。
「ゆかりのある食材を伺ったところ、ACAねさんの飼い猫が『しょうがストリングス』という名前だと分かり、生姜と看板商品の『御門米飴』を加えた味が生まれました。普段は箱で売ることが多いのですが、『金平糖が綺麗だから中身が見えるようにしたい』とのチームのご要望で、透明な瓶を採用しました」(砂糖傳増尾商店の担当者、以下同)
事前通販で買えなかったファンは、ならまちの本店にも足を運んだ。ライブのあった連休には、グッズを身につけた人たちが多数来店したという。
「『家族や友人へのお土産にします』と、嬉しそうにお話ししてくださいました。ずとまよの影響力と、ずとまろ(ずとまよファンの呼称)さんの熱量に日々驚かされています」
6万5000人超の観客を迎えた巨大公演の裏側には、主催者が行政や関係機関と調整を重ね、地元の職人や老舗がグッズづくりに知恵を絞るなど、一つひとつの手仕事があった。1300年前の歴史が残る土地で、その場所の文化やものづくりを取り込みながら、ずとまよのライブはつくられていた。
取材・文/キムラ













