教える人の仕事が増えるジレンマ

教える人の仕事が増えるのだ。

AIを使える社員は、自分の仕事を早く終えられる。すると周囲から質問が集まる。手順をまとめる。うまくいかない理由を調べる。他部署の相談にも乗る。

会社のために動けば動くほど、その人だけ忙しくなる。これでは続かない。

MITが2026年9月に紹介した比較研究が、この問題をよく表している。MITなどの研究者は、米国の医療機関と法律事務所を2年間追った。両者とも安全にAIを試せる環境と研修を用意し、医療機関は患者向けの退院時の説明、法律事務所は法務調査の仕組みづくりに取り組んだ。

ところが法律事務所では、試しては直す作業の負担が積み重なり、参加した専門職の8割超が活動から離れた。AIに反対したのではない。日々の実験に加わらなくなったのだ。AIの仕事が人事評価や報酬で認められない、という声もあった。

一方、医療機関は継続的な研修に加え、技術の専門家や知識共有の場を用意した。さらにAIを試す活動を職務に組み込み、人事評価や昇進にも反映した。試行錯誤に時間を使うことが、本人のキャリアにもつながっていた。

この2つの組織の示唆するところは分かりやすい。AIを使う時間だけでなく、試す時間、失敗する時間、人に教える時間も仕事なのである。

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AIを「会社の力」に変える仕事

アットホームでは、アンバサダーの共有会を月1回開き、管理職向けの共有会も設けている。小出さん自身も、会議や役員報告の資料づくりにAIを使わなければ仕事が回らないと話していた。

ここは会社側が意識したほうがいい。「君はAI詳しいよね。みんなにも教えてあげて」と軽く言う。でも、その時間はどこから出てくるのか。

質問に答える時間。使い方を試す時間。失敗例を整理する時間。それを通常業務に上乗せしたら、AI推進役から先に疲れていく。

AIに詳しい社員を見つけたら、「何を知っているの?」だけでは足りない。「今、誰の質問に答えているの?」「それに何時間使っているの?」まで聞いたほうがいいだろう。

AIを会社の力にするというのは、ChatGPTのライセンスを配ることではない。誰かが見つけた便利な使い方を、別の誰かが使えるようにする。その途中で起きた失敗も残す。教える人の時間も、ちゃんと会社の仕事として扱う。

銀行振込のファイル名をまとめて直す。なんとも地味な話だ。でも、こういう小さな工夫を、見つけた本人だけの秘密にしない。別の部署の誰かまで届ける。AIを会社の力に変える仕事というのは、案外、そんな地味な受け渡しなのだと思う。

文/小倉健一  写真/shutterstock