「クマを殺す」から「賢く遠ざける」へ…海外の成功例
結果、行政や農業団体も住民にドローンや電気柵などの最新ツールを貸し出し、自分たちの手でクマを遠ざける「権限」を与えつつ共に活動をはじめたのだ。
ただ「我慢しろ」というのではなく、「彼らにはわからない」と拒絶するのでもなく、「賢く追い払う技術」を提供したことで、過激な駆除論が「スマートな管理論」へと緩やかに変化していったらしい 。
アメリカらしいと言えば、そうなのだが、こうした工夫は日本社会にも求められているだろう。確かにそのままを真似することは難しいだろうが、日本型のヒューマン・ディメンションを考えはじめるのには良い時期になっているのではないだろうか。
また、カナダのブリティッシュコロンビア州では、自治体ごとに「ベア・スマート」という認証制度があるという。特定の地域でクマを殺さずに管理できるようになったら、州が「ベア・スマート・コミュニティー」として認定するというものである。
これにより、クマ管理が「やっかい事の処理」から、「自分たちの町は進んでいる」というシビック・プライド(市民の誇り)に変わったというのである。「殺せ」という声に対し、単に道徳で返すのではなく、「ゴミ管理を徹底すれば、駆除にかかる税金がこれだけ浮く」といった経済的な実利を語ることで、冷笑的な市民層を納得させていったという話もある。
ただ、彼らが選んだ手法には学ぶ点が多々ある。地域において、持続性のある運動体というのは、行政・専門家集団任せではなく、地域住民が主体的に関わり、自分たちの生活空間は自分たちで守る、そのための知識と能力を共有し、継続的な活動を維持できるシステムのことを指すということを教えてくれているからだ。
そこでは地域住民の知識とスキルの共有による「地域効力感」の醸成が重要なキーとなっていた。これはアメリカやカナダではもはや常識的な考え方であるが、日本社会に馴染むには多くの時間と工夫が必要であろう。
要は、捕殺によるクマの「被害対策」だけではなく、都市計画、誘引材やゴミの管理、クマと人間が共存するための行動変容の意識化(ベア・アウェアネス:Bear Awareness)など、幅広い分野での対策を必要とする問題として認識されることが重要である。
「ベア・アウェアネス」は、直訳すると「クマに対する意識」ということになるが、アメリカやカナダなどクマ類の生息地と人間の居住地が比較的近い地域で広く用いられている。人間の側の行動変容と意識改革を促すための啓発活動や教育プログラムとしても知られている。
それは、伝統的な自然に対する知識の評価の上に構築されるもので、先住民のTEK(TraditionalEcological Knowledge:伝統的生態知)の再評価という意味でも極めて重要な考え方であり、手法であると思われる。
私は、日本においても伝統的狩猟技術と生活哲学(自然関与の思考)を有した人々の再評価がなされるべきであると考えている。またそのために「マタギサミット」をはじめたという経緯もある。
文/田口洋美













