30周年でやめようと思っていた歌手活動

「歌が全然良くならなくて、調子が悪かったのがもう10何年も続いてました。30周年が迫ってきてる中で、これ以上歌いたいように歌えないから、30周年でやめようって思っていて。それで、ファンクラブもちょっと閉鎖をしたんですよね」

そう静かな口調で語ったのは、シンガーソングライターの岡本真夜。彼女の口から明かされたのは、長年ひとりで抱え込んできた歌声の不調。

1995年のデビュー以来、数々のヒット曲を世に送り出し、多くの人々の背中を押してきた岡本。しかし、その華やかな表舞台の陰で、彼女は10年以上にわたって思い通りに歌えないという原因不明の不調と戦い続けていた。

満足のいく歌声を届けられない焦燥感が積み重なった末、彼女が出した結論は「30周年での歌手活動終了」という苦渋の選択だ。

「当時は歌をやめてピアノを頑張ろうという風にシフトチェンジをしようとしてたんです」

音楽そのものを手放すのではなく、幼い頃から親しんできたピアノに専念する道を選ぶ。ファンクラブを一度閉鎖するという決断はファンへの申し訳なさと自分の歌声との訣別を意味していた。

だが、一度はあきらめかけた歌手活動の転機となったのは、ライブでの些細な変化と、傍らで支えるマネージャーの一言だ。

10年以上続いていた歌いづらさの背景には、本人がまったく自覚していない身体の異変が潜んでいた。

ライブ中に片側のイヤーモニターを外して歌っていた岡本。本人が気づかないうちに歌の音程(ピッチ)が少し下がってしまう現象が発生していた。ステージ上の音響の中で自分の声が正常に聴こえていない異変をいち早く察知したのが、現場にいたマネージャーである。