「教科書も読めない」層は増えていない
ちなみに、RSTとは定義が異なるため比較として正確ではないが、PISAの読解リテラシーでは、レベル1以下の成績下位層がまさに「教科書も読解できない」にあたる。ここにだけ目を向けても、2000年以降、増えつづけているとは言えない。レベル1以下は2006年をピークに減少し、2018年に再び増加するも、2022年にはまた改善した。
PISAの定義で言う「教科書も読めない」層は日本では全体の1割程度だ。宇野彰をはじめとする日本のディスレクシアやディスグラフィア(生まれつき文字や文章を書くことが苦手な特性)の調査・研究では、漢字の読み書きいずれかに困難を抱えるひとの割合が1割強だということがわかっている。数字的に大きな差がないことから推察すると、レベル1以下のひとたちの多くは読み書き困難者ではないかと思われる。もちろん、だから問題がないとか、そういったひとたちを放っておいていいと言いたいわけではない。ただ、日本は先進国のなかではレベル1以下の割合はかなり少ない部類に入ることは確認しておきたい。
さて、ややこしいのは、新井は「読書量と読解力には相関がない」と言い、OECDの調査では「読書の熱中度と読解力スコアには相関がある」としていることだ。
新井は『AI vs.教科書が読めない子どもたち』のなかで、読書は好きか/苦手か、好きだと答えた場合にはいつごろから好きか、苦手な場合はいつごろから苦手になったか、直近の1カ月で何冊読んだか、好きな本のジャンルは文学かノンフィクションかなど、かなり細かく尋ねた結果、どの項目も能力値と相関が見当たらなかった——読書の好き嫌いや量と、読解力とは関係がなかった、としている。
しかし、2002年に公表されたOECDの研究では、enjoyable reading(夢中になって読んだ体験、楽しみのための読書)の経験とPISA型読解リテラシーには相関があるとされている。そしてこれが日本の読書推進政策の根拠のひとつとなってきた。
だからもし同じ「読解力」という表現に惑わされて新井的なシン読解力を政界や教育界が重視するならば、国ぐるみの読書推進政策は停滞する。PISA型読解リテラシーと読書の関係について正しく理解するひとたちがしかるべき立場にいれば、今後も継続するだろう。
文/飯田一史 写真/shutterstock













