「殺せ!」「刺せ!」が飛び交う野球現場に抱いた違和感

批判的な意見を持つ人たちと、当事者でもある高野連の間には、やや温度差を感じる。そこには、この取り組みの本質をめぐる、微妙な認識の違いが隠されている。

「そもそものきっかけは、『野球用語』そのものよりも、野球の現場で日常的に飛び交っている言葉です。たとえば練習や試合で、指導者や選手から『(走者を)殺せ!刺せ!』『お前は死んでもいいから!』といった言葉が出るのは、野球の世界では決して珍しくありません。おそらく、経験者であれば大した違和感も持たないはずです。

ただ、『殺せ』『刺せ』といった言葉は、現代の教育現場ではまず使わない。でも、野球ではなんの違和感もなく使われている。その理由のひとつに、野球用語に当たり前のように使われている「死」や「殺」という言葉があるのでは……そう考えたんです」

筆者自身、野球経験者でもあり、仕事で野球の現場に足を運ぶことも多い。たしかに、こういった言葉を耳にしたことはある。ただ、多くの人がそうであるように、そこに違和感を覚えたことはなかった。松本理事長は続ける。

「たしかに、野球をやってきた人間からすれば当たり前の言葉です。本当に「死」や「殺す」という意味で使われていないこともわかっています。ただ、たとえばなにも知らない子どもが、はじめて野球の現場を訪れたとき、当たり前のように『殺せ!』という言葉が飛び交っていたら、どう思うか。

もしかしたら、『ちょっと怖いな』という印象を与えてしまうかもしれない。そんな可能性があるなら、時代に合わせて、新しい野球用語を模索してみてもいいのでは……そういう思いがこの取り組みにはあります」

見直し検討の野球用語「現在の用語」と「言い換え例」(「SANSPO.com」を基に編集部作成)
見直し検討の野球用語「現在の用語」と「言い換え例」(「SANSPO.com」を基に編集部作成)

野球界は現在、少子化や子どもたちが選択する競技の多様化に伴う競技人口減少に悩まされている。そんな中、宮城県では今年度、硬式野球部の1年生部員が前年より増加している。一方、県高野連では以前から野球人口拡大に向けた普及振興活動を進めており、「野球用語を考えてみませんか?」という取り組みも2025年7月から続けている。

そう考えると、宮城高野連の考え方と、それに否定的な意見を持つ人たちの「すれ違い」の構図がはっきりする。

今回の件に否定的な感情を持つ人の多くは、「野球を知っている人」だろう。知っているからこそ、慣れ親しんだ言葉にも、それを使うことにも違和感はないし、疑問も生まれない。

世間的には「物騒」と言われる言葉であっても、そんな意図で使っていないことは明白だ。だからこそ、そこに「NO」を突き付けられたと感じれば「それは、ちょっと違うのでは?」と違和感を持ってしまう。そう感じる人がいるのも自然だろう。