地方や刑務所から「キルゾーン」に送り込まれる

地方指導者にとって、割り当てられた兵員を確保することは、クレムリンへの忠誠を示す手段でもある。募兵数が行政上の実績となり、その結果として増えた戦死者が、地域の「献身」として扱われる逆説的な構図が生まれた。

少数民族地域を含む地方で突出する死者数は、戦争の負担がロシア社会に均等に分配されていない現実を示している。

地方や刑務所から集められた兵士は、前線でどのように使われているのか。

ウクライナ東部の戦線では、無人機が前線とその後方を常時監視する。兵士や車両が発見されれば、位置情報がFPV無人機や砲兵部隊へ送られ、攻撃を受ける。ロシア、ウクライナ双方が「キルゾーン」と呼ぶ空間だ。

ウクライナのゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領

大部隊や装甲車をまとめて動かせば、すぐに発見される。このためロシア軍は、数人単位の歩兵を徒歩やオートバイで繰り返し送り込み、ウクライナ軍陣地の隙間へ浸透させる戦術を多用するようになった。ウクライナ軍が「千の傷作戦」と呼ぶ恐ろしい戦法だ。

一度の攻撃で得られる領土はわずかでも、攻撃を途切れさせず、防御側の兵士と弾薬を消耗させる。前の部隊が倒されれば、次の部隊を送る。

必要なのは、高度な訓練を受けた精鋭だけではない。損失を前提として、次々と前進させられる大量の歩兵である。兵士一人一人の生存より、攻撃の継続が優先される。

この戦場に送り込まれる兵士には、地方の生活困窮者や少数民族、受刑者らが少なくない。

命の選別…誰の命なら失っても政権への打撃が小さいか

経済的、社会的に拒否する力の弱い人々が集められ、危険な任務を担う。ロシア軍が進めているのは、戦術としての消耗戦であると同時に、誰の命なら失っても政権への打撃が小さいかを見極める「命の選別」でもある。

ロシア政府は侵攻後、自軍の戦死者の全体像をほとんど明らかにしていない。政権はインターネット統制を強め、戦死者や前線の実態が全国へ広がるのを抑えようとしている。

地方で一人ずつ告げられる死は、国家全体の損失として共有されにくい。戦死者を地方に分散させることは、戦争が社会に与える衝撃を分散させることでもある。少数民族や農村部が受けた被害は地域に閉じ込められる。

だが、地方の住民や生活困窮者、受刑者を高額報酬で集める兵員確保の仕組みにも、限界が見え始めている。