「24年間やっていても知らなかった」ベテラン店主の誤算

さらに追い打ちをかけたのが、券売機だった。設置してまだ半年ほどしか経っていないにもかかわらず、内部から異音が聞こえるようになった。

「これも油が基板にまで入り込んでいるんじゃないか、と。もう全部つながっちゃったんですよね。これはこのまま続けられないな、と」

壁、換気扇、券売機……油煙の影響が店内各所に及んでいたという。取材中、最も印象に残ったのは、樹庵さんがぽつりと漏らしたこの一言だった。

「24年間ラーメン屋をやっていて、まだ知らないことがあったんですよ」

24年。数え切れないほどのラーメンを作り、数多くの店をプロデュースしてきた職人である。それでも今回初めて知った世界があった。

「札幌 六坊」の「札幌ブラック」
「札幌 六坊」の「札幌ブラック」

「鍋を振る業態を本格的にやってこなかったんですよね」

そう語る樹庵さんは、この問題に気付いてから、札幌ラーメン店の厨房を意識して見るようになったという。

「厨房の煙がちゃんと流れているかを見るようになりました。壁から直接外へ排気している店はやっぱり強いんですよ。逆に煙が客席側へ流れている店を見ると、『ここ大丈夫かな』って思うようになりました」

経験豊富な店主ほど、自分の成功体験に頼ってしまいがちだ。

しかし樹庵さんは違った。今回の出来事を設備会社や物件のせいにするのではなく、「自分が知らなかったこと」として受け止め、新たな学びへと変えていた。その姿勢こそが、24年間第一線を走り続けられる理由なのだろう。

一方で、現実問題として、このまま店を閉めるわけにはいかなかった。「札幌 六坊」は、スケルトン状態だった物件を一から造り上げた店舗だ。工事費は約4000万円。オープンから1年3カ月では、とても回収できる金額ではない。

だからこそ樹庵さんは、「閉店」ではなく「リニューアル」という道を選ぶことになる。

「このまま閉店するわけにはいかない」

そう決意した樹庵さんだったが、新しい業態はすぐには決まらなかった。