「戯曲」と「小説」の言葉の違い
本谷 3号さんの舞台は以前、吉祥寺シアターで『燃える花嫁』(作:ピンク地底人3号、演出:生田みゆき)を拝見しました。今回、小説の『おもちゃの指輪がほしいねん』を読ませていただいて、舞台の言葉の質と小説の言葉の質がまったく違っていることに驚きました。「同じ人が書いたんだろうか?」と思うくらい、言葉の使い方が違っていたので、まずはそのことを今日、うかがいたいなと思ったんです。
3号 僕は戯曲でも毎回作風が違うので、同じ人が書いたとは思えないと言われることが多いんです。関西で演劇活動をしてきて二十年になるんですけど、この三、四年は、外部の劇団から戯曲の依頼を受けるようになりました。『燃える花嫁』もその一つです。
本谷 依頼されたお仕事ということは、ちょっとイレギュラーだったんですか。
3号 以前まではそうだったんですが、最近では外部提供はレギュラー化しています。というのも元々は作・演出を年に2回のペースでやっていたのですが、だんだん自分は演出家というよりも劇作家なんだと気が付き始めて。とにかく納得できる戯曲が書きたい。戯曲だけだったら自分の思った通りに書けるはずですよね。
本谷 戯曲の段階ではそうですね。
3号 あとは信頼できる方が演出してくれれば、どんな作品になってもオーケーみたいな感じに今はなっています。それに、お題をいただいて書くのも好きで、『燃える花嫁』の場合は「移民」という自分からは出てこないテーマでした。ただ、小説の場合はちょっと違っていて、自分の中にずっと溜まっていた「小説でしかできないアイデア」をストレートに吐き出したものです。
本谷 吐き出したものが何なのか聞きたいです。自分の中に溜まっていたものってどんなことでしょうか。
「小説だったら書けるかも」というアイデア
3号 演劇をやってきて、「舞台の上で表現するのは難しいな」というアイデアがいくつかあったんです。演劇でできないことはないと思うのですが、少なくとも僕には方法がわからないといいますか。それが小説を書くようになって「あの時のあのアイデア、小説だったら書けるかも」と思い出したものを吐き出している感じです。でも、それもあと二作くらいで底をつきそうなので、その次はどうすんねん、というのが、自分の中で怖くもあるし、楽しみでもありますね。
本谷 劇作でも自分の中から出てきたものを書いていたんですか。
3号 最初はそうでしたけど、だんだん外部に求めるようになって、簡単に言うとめっちゃ取材するようになりました。他者というか、自分以外の人に興味が向かうようになったんです。でも、小説はまだ自分ですね。
本谷 今回の小説に出てくる、万引き犯を捕まえる「保安員」の細かい描写、あれはリサーチですか?
3号 いえ、これは僕自身のバイト経験です。前作の『カンザキさん』もそうですけど、小説ではまだ自分の経験がもとになっています。本谷さんは二〇〇二年から小説を発表されていますよね。二十年以上書かれているわけですけどどうやって書かれているんですか?
本谷 えっ。そんなに昔から書いてました? 怖い(笑)。でも、私は今でも、毎回「小説ってどうやって書くんだっけ?」と模索しながら書いています。一度書いたら飽きてしまうから同じようなものは書けないし。ただ、3号さんと違うと思うのは、私は最初に「アイデア」や「結末」を決めて書いたことが一度もないんです。
3号 真っ新な状態からですか?
本谷 そうですね。それしかやったことがない。
3号 ということは、言葉が浮かんで、その言葉が次の言葉を呼んで書いていく感じですか?
本谷 そうです。書いては捨て、書いては捨ての繰り返し。そのプロセスの中で「私が本当に書きたかったのはこれだ」という芯が見えたら、そこを拾い上げて、周りの余計な部分をそぎ落とします。
3号 小説も戯曲もですか? 戯曲の場合、プロットを先に出さないとプロデューサーがキャスティングできないですよね。
本谷 戯曲も同じです。昔、「プロットがあるとみんなが助かるから一回書いてみて」と言われて、プロットを書いてその通りに芝居を作ったことがあるんです。でも、出来上がったときに「二度とプロットは書かない!」と思いました(笑)。スタッフやキャストは仕事がしやすかったかもしれないけど、私はみんなを助けるために芝居を作っていない。ごめんなさい。
あらかじめ決まった設計図をなぞるだけの行為に、身体がどうしても納得できなかったんです。プロットをなぞる行為の意味が分からなくなってしまって、自分は何のために芝居を作っているんだろうと思ってしまいました。なので、私はプロット否定派なんですよ。
3号 そうなんですか!
本谷 だから今日、お聞きしたかったことの一つが、この小説にはプロットがありましたよね、ということ。物語がすごく綺麗に着地しているから。
3号 いや、それが、あらかじめプロットを考えていたわけではないんですよ。
本谷 え、プロットはなかったんですか?
3号 ないんです。「この流れなら、こう着地させる」という身体的なバランス感覚で書いています。最初にぼんやりあったのは「ミイラ取りがミイラになる」というイメージだけでした。主人公の保安員の女の子が、万引き犯を追っているうちに……という展開を考えていたんです。
でも、書き進めるうちに「いや、この子は絶対に万引きなんかしないな」とキャラクターが勝手に動き出して、結局、今の形に収まりました。















