私の夢も続く
日本はその勢いのままグループステージを突破。
決勝トーナメント1回戦、ベスト16進出を懸けた相手は、5度のワールドカップ優勝を誇るブラジルでした。
私はその日の朝からソワソワしていました。気持ちが溢れ、ユニフォームを着て出社。心なしか応援モードに入っていて、声も大きくなり、目にも力が入っていたような気がします。
そして迎えたキックオフ。深夜2時。日本中がヒューストンに向けて想いを届けます。
試合は前半からブラジルのペース。しかし日本はコンパクトな守備を敷き、連動した素早いプレスと相手に「考える時間」を与えない切り替えの速さを見せ、ブラジルに思うようなプレーをさせませんでした。
そして試合は動きます。前半29分。
佐野海舟選手がボールを奪うと、ドリブルでペナルティーエリア手前まで持ち込み、そのまま右足で糸を通すようなシュート!
日本先制!(涙)
王者ブラジル相手に先に点を取ったのは日本!
深夜3時前にも関わらず、自宅マンションが揺れたように感じました。外を見ると明かりの消えている家の方が少ない。
「日本はブラジルに勝つ」多くの日本人がそう願っていたのではないでしょうか。
日本は質の高い守備を続け、1対0のまま後半へ。
しかし王者は黙っていませんでした。後半開始からブラジルのキーマンであるヴィニシウス選手のポジをサイドへ変更。
ピッチを広く使い、サイドから次々とクロスを送り込んできます。
日本のコンパクトな守備が、少しずつ揺さぶられていきました…それでも日本は、運動量を落とさず、懸命に守り続けます。
こんなにも時間の進みが遅く感じる試合はこれまで経験したことがありませんでした。後半に入って何度時計を見たことか。我慢の時間が続きます。
迎えた後半11分。カゼミーロ選手のヘディングシュートが決まり、同点に追いつかれます。
そこからのブラジルは「王者の強さ」を見せつけてきます。
「このままでは終われない」という矜持が後半の彼らを突き動かしていたように感じます。
そのブラジル相手に日本も、負けない力強さで、体を張った守備を続けます。
そのまま試合はアディショナルタイムに突入。90分間祈り続けた私の手からは汗が垂れるほど力が入っていました。
延長戦突入まであと1分。1秒ずつ時計が進んでいくことが嬉しかった。
しかしその瞬間は突然訪れます。猛攻を仕掛け続けていたブラジル。
マルティネッリ選手が走ったかと思えば、ギマランイス選手から鋭いスルーパスを受け、冷静にシュート。無情にもそのボールはゴールネットを揺らしました。
ブラジルが勝ち越してから残り時間はあとどれくらいあったでしょうか。日本の選手たちは諦めることなく切り替えて、すぐにブラジルゴールに向かっていきます。
「絶対に大丈夫。日本なら追いつける」
つい先ほどまでは「早く時計が進んでくれ!」と願っていたのに、今度は「時計よ、止まれ!」と願います。
しかし願いは届かず、試合終了。
1対2。日本はブラジルに負けました。決勝トーナメント敗退。
悔し過ぎて眠れなかった。
これまで取材してきたからこそ、選手たちの賭ける想いが手に取るようにわかります。日本のワールドカップの目標は「優勝」、私も本気でそれが叶うと信じていました。積み重ねてきた努力も、経験も、それだけのものがあるからです。
数字だけ見れば、「敗戦」です。それでも私は、この試合を“敗北”と呼ぶ気にはどうしてもなれません。
試合終了の瞬間、ブラジルの選手たちは心の底から安堵したように喜びを爆発させていました。それは、「普通に勝った」試合ではなかったからです。
過去5回、W杯で優勝を経験しているブラジルが、アディショナルタイムまでもつれ込まなければ決着をつけられなかった。
日本は、そのブラジルを「本気」にさせた。
それは日本が脅威であったことの何よりの証明であり、日本の成長の証だと思います。
日本サッカーの歴史を振り返れば、その凄みがより鮮明になります。
ワールドカップへの出場すら夢だった時代から、グループステージ突破を目標にした時代を経て、今日本はワールドカップ「優勝」を目標に掲げ、世界王者・ブラジルをあと一歩まで追い詰めることができた。
日本サッカーの「当たり前」の水準が、また一つ引き上げられたのです。敗れても、前進している。それを確信できた試合でした。
翌日。
多くの選手たちは、すでに4年後を見据えていました。4年後、新しい景色を見るためには何が必要なのか。その道筋は見えました。
私もその景色を見たい。
これからもサッカー日本代表と共に歩んでいきたい。
ここから先の4年間も、今回『仕事』で行けなかった悔しさ、そして現地で味わった感覚を忘れずに選手以上に質の高い準備をする以外、私に選択肢はありません。
臥薪嘗胆。
今度こそ「仕事」で、次のワールドカップを目指して!
私の夢は続きます。
また選手みたいなことを言ってごめんなさい(笑)。
文/三谷紬













