「ハポン! ハポン!」

気合い十分の私はユニフォームを着用して飛行機に搭乗。

機内には、同じ思いを胸に異国の地へ向かう日本サポーターがたくさんいました。

その光景を目にした瞬間、「いよいよ決戦の地へ向かうんだ」という実感が湧いてきます。

奇跡的に飛行機の大きな遅延もなく現地時間6月20日試合当日、モンテレイに到着。

空港ではメキシコのボランティアスタッフが「WELCOME! JAPAN!」と言いながら明るく迎えてくれました。

その後、ニューヨーク在住の親友夫婦と合流し、スタジアムに向かいました。

これまで何度も日本代表の試合を見てきました。アジア最終予選の修羅場も、強豪国相手の試合でスタジアムが揺れるような熱狂も、何度も。

それでもモンテレイスタジアム(エスタディオBBVA)のピッチが目に飛び込んできた瞬間、今までにない感覚に鳥肌が立ちました。

雰囲気が根本から違う。

最終予選にも「負けたらワールドカップ出場を逃すかもしれない」という切迫感から生まれる独特な緊張感があります。

しかしワールドカップのそれは、もっと重層的でした。

世界中から集まった人々の4年分の想いが、一つのスタジアムに凝縮されたような、圧倒的な質量を持った高揚感と緊張感が、同時に押し寄せてくる感覚。スタジアムに足を踏み入れた瞬間の、体が震えて、どう呼吸をしたら良いのかわからなくなった数秒間のことは、一生忘れないと思います。

スタンドを見渡すと、青いユニフォームがあちらこちらに見えます。メキシコ人のファミリーが、若者のグループが、サムライブルーに身を包んでスタジアムに詰めかけていました。

日本対チュニジア戦のスタンド 写真/JMPA
日本対チュニジア戦のスタンド 写真/JMPA

話を聞いたメキシコ人サポーターは日本のアニメと共に育ったと言います。『ドラゴンボール』『ナルト』…と次々に日本のアニメを挙げながら「日本を好きにならない理由がないよ! メキシコ人は日本が大好きなんだ! 全力で日本の応援をするに決まっているさ!」と言ってくれました。

この胸が熱くなった感情はテレビ越しでは絶対にわからないことでした。

両チームの選手たちがピッチに入場し、国歌斉唱が始まりました。

いよいよ試合が始まる。

日本の国歌・『君が代』が流れた瞬間、ここまでの4年間のこと、仕事で来られなかったこと、それでも今ここに立っていること、夢にまで見たワールドカップの舞台で日本代表を応援できる喜びが一気に込み上げ、涙が止まりませんでした。

そして迎えたキックオフ。

スタジアムのどこからともなく声が上がり始めました。

「ハポン! ハポン!」

スペイン語で「日本」を意味するその言葉が、メキシコ人サポーターの間から自然発生的に広がっていったのです。

一角から火がついて、隣へ、また隣へ。気づけばスタジアム全体がその波に包まれていました。日本人サポーターが先導したわけではありません。

メキシコの人たちが、自分たちの意志で日本を後押ししてくれていました。

試合は開始早々から動きました。

前半4分、右サイドから素早く逆サイドへ展開し、パスを受けて突破した中村敬斗選手がゴールライン付近から中央へ折り返すと、走り込んだ鎌田大地選手が巧みな左足バックヒールでネットを揺らします。

ワールドカップの舞台で日本のゴールが見られた! また目に涙が溜まります。

続けて前半31分、ペナルティーエリア際でボールを収めた上田綺世選手が、強烈なミドルシュート!

ゴール左下に突き刺さるようなゴラッソ! 上田選手念願のワールドカップ初ゴールです。

大きな歓声が渦を巻きます。

後半に入っても、日本は主導権を譲らず、危なげない試合運びで、着実にゲームを支配。

後半24分。上田綺世選手の鋭いスルーパスに反応した伊東純也選手が1対1を突破し、冷静に流し込んで3点目。

日本の勝利を確信しました。

畳み掛けるようにスタジアム全体からはち切れんばかりの日本コールが沸き起こります。メキシコ・モンテレイにいるはずなのに、まるで日本のホームスタジアムにいるように錯覚します。

異国の地で、見知らぬ人たちと同じ方向を向いている。そこに国籍は関係ありません。

これこそが、ワールドカップなのか。

その雰囲気にまた鳥肌が立ちました。

後半38分、右ポケットから佐野海舟選手がクロスを送ると、上田綺世選手がヘディングで合わせて4点目。日本代表が4得点以上を挙げて勝利するのはワールドカップでは初めてのことでした。

試合は4対0で終了。

この上ない最高の試合を現地で観戦することができました。インテンシティの高い試合運び、ワンチームとなり「勝ち」にこだわる姿勢。全てに胸を打たれ、ここから先も日本代表の快進撃は続くに違いない! と自信を持ち、日本人であることに胸を張ってスタジアムを後にしました。

「日本は4点取った上に無失点だったんだろ?これをあげるよ」「サービスしてあげる」と街の至る所で共に戦ってくれたメキシコ人たちが最大限の祝福をしてくれました。

現地に行かないとわからないことがたくさんありました。サッカーがさらに好きになりました。

メキシコ開催のワールドカップに来られて本当に良かった。

心の底からそう思いました。