パルチザン組織「ATESH」の暗躍

そして外からの攻撃だけではない。占領地の内側にも火が放たれている。ウクライナ人とクリミア・タタール人によるパルチザン組織「ATESH」——タタール語で「火」を意味する——は、占領地に最大2,000人のエージェントを抱える諜報・破壊網へと育った。

彼らは長距離攻撃の「目」として標的情報を送り込むだけではない。「ブント」という名のチャンネルを通じて、突撃を拒みたいロシア兵に装備の壊し方まで教えている。

燃料タンクに生卵や砂糖を混ぜてエンジンを潰す——黒海艦隊の第126旅団では、この手口で水上オートバイやゴムボートが次々と「原因不明の故障」を起こし、調査委員会が派遣される騒ぎにまでなった。ロシアの兵士たちは故障を口実に死地への突撃を回避したのである。

ここまで来ると、将校たちの心も折れ始める。ATESHの情報によれば、黒海艦隊に残る指揮官たちは正式な命令を待たず、家族や運べる財産をこっそり本土へ移し始めているという。司令部の本土撤退は、前線の兵に対する何よりの士気崩壊の合図だ。

出口を断たれた瞬間に牢獄へと変わる

クリミアを巡る戦いは、もはや地上軍が大量の血を流して土地を押し合う、旧来の消耗戦ではない。海、空、サイバー、そして外交までを束ねた多領域の包囲戦である。

ウクライナは半島を力ずくで攻め落とそうとはしていない。橋を断ち、フェリーを焼き、燃料を枯らし、「ここを軍事的に維持することは、もう割に合わない」という計算をロシア指導部に突きつけている。

プーチンは2014年、この半島を不沈の要塞にしたつもりだった。だが、その要塞は出口を断たれた瞬間に牢獄へと変わる。彼が築いた足場は、いつのまにか彼自身の兵を閉じ込める檻となったのだ。

追い詰められたプーチン大統領
追い詰められたプーチン大統領
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戦争の最終的な帰趨を決めるのは、おそらく前線の押し引きではない。この、土地ではなく相手の選択肢そのものを枯らしていく戦略の洗練度なのである。

結局のところ、ウクライナの洗練された非対称の包囲戦略によって、プーチンが固執したクリミアの補給網は寸断され、燃料は枯渇し、内部からはパルチザンの破壊工作が軍を蝕んでいる。

かつて「不沈の要塞」と誇った場所は、今やロシアの軍事的限界を露呈する象徴となった。兵站と士気が共に崩壊する中、半島を維持するコストは限界を超えており、ロシアは出口のない絶望的な消耗を余儀なくされているのである。

文/小倉健一