不安を生む自由市場vs. 信頼を育てる計画

市場では、在庫情報は企業の武器である。だが、そのことが情報の隠蔽につながり、合成の誤謬を生み、社会的不安を増幅してしまう。それに対して、民主的計画では、在庫情報は社会の共有財産、つまり〈コモン〉として扱われる。市場では、情報の非対称性が利益を生む。だが、民主的計画では、情報の共有が信頼と協力を育んでいくのだ。

当然、この過程では、国家が情報開示を義務化したり、価格統制を行ったり、買いだめを禁止したり、必要な部門に優先配分を行ったりする介入も求められる。ただし、それは国家が上から命令し、強制するということではない。国家の役割は、社会的な情報共有と合意形成を可能にする制度的条件を整え、強者による囲い込みを防ぎ、弱い現場に必要な資源が届くようにすることにある。

今後、気候変動がもたらす資源不足や米中の覇権争いの激化により、ホルムズ海峡閉鎖のような事態は世界各地で生じ、物資不足の影響は長期化・慢性化していく。言ってみれば、コロナ禍以降に止むことを知らない戦争やインフレは、慢性的欠乏経済の始まりなのである。

だからこそ、今回の危機の教訓を、単に「石油備蓄がたくさんあれば大丈夫だ」という話で終わらせてはならない。あるいは、「中東依存をやめ、輸入先を分散させよう」という話だけでも不十分である。激動の時代のエネルギー安全保障のためには、計画化に舵を切るのは今がラストチャンスである。

斎藤幸平が警告…ホルムズ海峡の緊張緩和でも消えない「ナフサ不足」、危機が暴いた市場経済の限界…「必要なのは民主的な計画経済だ」_4
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ナフサ危機から見えてくるのは、現代社会に必要なのは「市場か、国家か」という単純な二択ではなく、市場に任せれば任せるほど壊れていく領域については、計画化が求められるという課題である。それは、エネルギーだけでなく、食料、医療、物流、住宅、ケアといった様々な領域に関わる。これからの気候崩壊と戦争の時代に、人びとの生活と生産の基盤である<コモン>を、購買力と不安心理に委ねていてはならないのだ。

自由市場は、平時には効率を装う。だが危機になると、不安を増幅し、必要なものを必要な場所から奪い、社会全体を自己防衛の生存競争へと追い込んでしまう。だからこそ、戦時には、買える者が買い占める資本主義経済ではなく、必要な者に届くように調整する計画経済が必要になる。

それは必ずしも嘆くべき事態ではない。むしろ、「各人は能力に応じて、各人には必要に応じて」という民主的経済の理念を、恒久的欠乏経済の時代に実現する道になるのである。

文/斎藤幸平 写真/Shutterstock

人新世の「黙示録」 
斎藤 幸平
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2026/4/6
1,870円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4087370102

【戦争と選民ファシズムの時代が到来。「世界の終わり」を生き抜くための羅針盤!】

世界的ベストセラー『人新世の「資本論」』続編!!

資本主義が招いた気候崩壊。そこから世界は極度の欠乏経済へ。奪い合いの不安のなかで、他者を切り捨てる「選民ファシズム」が蔓延し戦争も次々と勃発する。破滅への行進をどう止めるのか? 気鋭の経済思想家が、その秘策を提示する!

【各界が絶賛!】
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久しぶりに赤線を引きながら唸った。反論したい箇所ほど面白い、稀有な本。
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飽くなき技術革新が人類を救う――
そう囁くテック・エリートが造る「ノアの方舟」にあなたの席はない。
普遍的な人類の救済へ、ラディカルな希望をつなぐ書。
■國分功一郎氏(哲学者)
「暗黒社会主義」の衝撃。この絶望的な提案が、私たちの大きな希望になる!
■柄谷行人(思想家)
資本主義の暴走による諸システムの崩壊により、少数の富裕層以外は地獄のような苦境に追いやられ始めているという著者の絶望を私も共有している。本書が提言する、新たなる「計画経済」「プロレタリア独裁」の行方を見守りたい。

【おもな内容】
・気候崩壊によって世界は欠乏経済へ
・なぜ、戦争が止まらない時代になったのか?
・「選民ファシズム」にどう対抗するのか?
・テック・エリートたちは「世界の終わり」にどう適応しようとしているのか?
・欠乏と格差を固定化させるテクノ資本主義
・不安の悪循環を逆回転させ、「破局」の時代を共に生き抜くための切り札とは?

【目次】
はじめに――未来はファシズムだ!
第1章:気候崩壊による恒久欠乏経済
第2章:テクノ資本主義で進むファシズム
第3章:「世界の終わり」と加速主義
第4章:計画経済が全体主義を連れてくるのか
第5章:「ハイエクの呪縛」を解くために
第6章:デジタル社会主義は可能か
第7章:ハイエクの盲点と「緑の戦時経済」
第8章:晩期マルクスの独裁論
第9章:エコロジー独裁への道
第10章:暗黒社会主義という希望
おわりに――名もなき者たちの「黙示録」

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon
人新世の「資本論」 増補新版
斎藤 幸平
人新世の「資本論」 増補新版
2026/4/6
1,980円(税込)
352ページ
ISBN: 978-4087370096

【「人新世」シリーズ累計57万部突破(2026年3月時点)&
19言語に翻訳された世界的ベストセラーに
あらたに「補考」を書き下ろした完全版!】

人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。
気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。
それを阻止するには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。いや、危機の解決策はある。
ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!
続編『人新世の「黙示録」』へのブリッジである、あらたに書き下ろした補考「オーバーシュートと進歩の終わり」を収録した完全版!

【各界が絶賛!】
■スラヴォイ・ジジェク氏(哲学者)
生き延びたい人には、必須の書だ。
■坂本龍一氏(音楽家)
気候危機をとめ、生活を豊かにし、余暇を増やし、格差もなくなる、そんな社会が可能だとしたら?
■水野和夫氏(経済学者)
資本主義を終わらせれば、豊かな社会がやってくる。だが、資本主義を止めなければ、歴史が終わる。常識を破る、衝撃の名著だ。
■ヤマザキマリ氏(漫画家・文筆家)
経済力が振るう無慈悲な暴力に泣き寝入りをせず、未来を逞しく生きる知恵と力を養いたいのであれば、本書は間違いなく力強い支えとなる。

【おもな内容】
はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章:気候変動と帝国的生活様式
第2章:気候ケインズ主義の限界
第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つ
第4章:「人新世」のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
第8章:気候正義という「梃子」
おわりに――歴史を終わらせないために
補考:オーバーシュートと進歩の終わり

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