コバルトのおかげで今がある

真堂 忘れていましたけど、スマキントリオとか(笑)?

須賀 その話、します(笑)? 一体、誰が考えたネーミングなのか謎ですが。もう一人のコバルト同期の金蓮花(きんれんか)さんと3人でね。

真堂 金蓮花さんの〝キン〟、須賀さんの〝ス〟私の〝真〟をマと読ませて、3人セットで売り出されることが多かった。かなり無茶なネーミングだけど……。

須賀 あの頃は読者を招待して作家たちとお茶会とかサイン会とか、イベントが頻繁にありましたよね。作家って基本人前に出るのが苦手だから結構ハードだった。でも、そういう交流会を通して親近感を持ってくださった当時の読者の方々が、今でもついてきてくださっていて本当にありがたいと思います。

真堂 交流会を通じて読者さんたちの顔が見えて本当に良かったです。

須賀 そうそう。私たちは20代前半で、読者の方は中学生や高校生の10代がメインで。皆、すごく震えるほど緊張していましたよね。それで一生懸命に声をかけて応援してくださるから、「この子たちを幸せにしなきゃ」って作家として意識するきっかけになりましたね。こっちまで緊張しちゃってサインするとき、なんて書けばいいんだろうって思った(笑)。

真堂 あの経験は本当に大きかったですね。読者と同じ心を共有できて。作家として作品の向こう側にいる読者の顔が見えたことは本当に大きかったです。

名物あとがきの思い出

須賀 読者との交流と言えば、コバルトの名物、あとがきがあります。このエッセイは、当時のあとがきのノリで書こうと決めて始めたんですが、昔の自分が書いたあとがきを改めて読み返すと、あまりにネジが飛んでて恥ずかしくて……。あの頃よりは、今回は理性が保たれていると思いたい。真堂さんは、あとがきの思い出はありますか?

真堂 私が書いていたのはシリアスな流れの話が多くて、なおかつ次巻への引きのために、あえて殺伐としたシーンで切るんです。でも読者の読後感を考えると、あとがきで少しは明るくしてあげたかった。たとえば宝塚で言うと深刻なお芝居の後、明るいショーで観客の気分を盛り上げるような感じですね。あとがきを通じて、真堂樹ってシビアな小説書いているけど、意外に楽しくて面白い人だなと親しみを感じてもらえればと。それでうまくバランスが取れればいいなと思っていました。ある意味“あとがき版真堂”を楽しく演じる感じでしょうか。

須賀 おお……さすが1か月前に原稿を上げる人はちゃんと考えてる(笑)。私は演じる余裕もなく、とりあえず早く寝たい一心でした。

脳内の本棚

真堂 今回のエッセイは、テーマが毎回ちがうから、読んでいて、須賀さんの心の中とか、脳内の本棚が想像できました。いろんなトリビアがつまっていて、なんだか得した気分がします。たとえば、カラー診断のところの「イエベ」「ブルべ」とか恥ずかしながら初めて知りました。友達に聞いたら周回遅れかって笑われましたよ(笑)。クラシックの指揮者の回も、私はそれまではただ音楽を聴いているだけだったのですが、歴史的な話をはさんでくださるので面白かったです。須賀さんの好きな野球にたとえると、どれだけ球種持っているの、っていう感じ。軽い調子で書かれていますけど、須賀さんらしい知識と体験と思考の積み重ねがしっかりある。持っている世界のそれぞれ入り口になっている感じがしました。私もフラメンコのタブラオに連れてってくれないかなと思いましたよ。

須賀 是非是非、行きましょう!

真堂 私、中1の頃、1年ほどバレーボールをかじったくらいでスポーツは全く苦手なんですけど、春の選抜高校野球も見てみたいなと思いました。春と夏ってちがうんだって初めて知って。

須賀 この本が、いろんな世界の入り口になっていると言われると嬉しいです。私がコバルトで書いていた分野ってミリタリーとか野球とか、一般の女子には受け入れがたい趣味が多かったので。小説もそうなんですが、このエッセイで一人でも同志が増えたらいいなと思いつつ書いていたところがありますね。

真堂 私もしっかりしなきゃ、知識欲のスイッチ切れてないか、と反省しました。須賀さんに何か教えてもらいたいですよ、フラメンコとか……。

須賀 ダンスは良いですよ。踊って発散してスッキリしたらネタが浮かんだりとかして。近頃とくに体力に余剰がないと創作って難しいなって思います。だって脳って体の一番上に乗っかっているから、パワーがないとアンテナが動きませんし。

真堂 小学生の頃の須賀さんが『三国志』に夢中になっていた話も姿が想像できて面白かったです。それにしても、小学生で吉川(よしかわ)​英治(えいじ)はすごい読解力ですよ。普通じゃない(笑)。

須賀 そんなことないって(笑)。でも当時の経験から、本当に読みたい話がないなら自分で書くしかないと思うようになって、それが作家を目指したきっかけだったかも……。

真堂 私は、友達に誘われてコバルト・ノベル大賞に作品を投稿することにしたんですけど、受賞作を書き終えたとき、なんて幸せなんだろう、作家ってこんなことできるんだと分かって……。たぶん、完全に自分好みの世界を作り上げたからなんでしょうけど、その快感をずっと求めている感じですね。