情報操作をする三つの目的

情報操作の目的は、主に三つあるとされている。第一に、社会的な分断と混乱を引き起こし、民主主義や社会への信頼を揺るがすこと。第二に、与党の支持を削ぎ、日本の外交・安全保障政策に影響を与えること。第三に、同盟国への不信感を高めることだ。

実際、2016年のアメリカ大統領選では、ロシアの影響工作が社会的分断を深めたとされる。偽アカウントによる人種問題や移民問題への投稿が拡散され、国民の対立が煽られた。イギリスのEU離脱をめぐっても、類似の介入が確認されている。

日本ではこれまで、「日本語の難しさ」が外国からの介入の障壁になってきた。海外から自然な日本語で情報操作を行うのが困難だったのである。しかし、生成AIの進化によって、違和感のない日本語による自動投稿が可能になったいま、言語の壁はもはや防波堤とはならない。

これまで難しかった日本語での情報操作もAIの進化で可能に(写真/shutterstock)
これまで難しかった日本語での情報操作もAIの進化で可能に(写真/shutterstock)
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このような状況を受けて、政府は2025年7月に「国家サイバー統括室」を新設し、SNS監視や情報操作への対策に乗り出した。平将明デジタル大臣も、「事実関係の検証と慎重な対応が必要」とコメントしている。

とはいえ、現行の日本には、外国勢力による政治介入を直接取り締まる明確な法律が存在しない。そのため、対策には限界があり、他国の取り組みを参考に多角的な対策を進めることが必要だと指摘される。

例えばオーストラリアでは、2018年に「外国干渉防止法」を制定し、特定国による政治的な影響を排除する仕組みをつくった。アメリカでは政治広告に関する規制を強化し、ドイツではサイバー攻撃の監視体制を強化するなど、先進各国は様々な対策を進めている。

一方で、外国勢力による工作を防ぐために、SNSの投稿やアカウントを監視・削除する動きが強まると、「表現の自由」や「通信の秘密」といった憲法上の権利とどう折り合いをつけるのかが問われる。そのため、報道機関、研究者、そして一般のユーザーを含む社会全体で、安全な情報環境のあり方を考えていく必要がある。

炎上で世論はつくられる――民主主義を揺るがすメカニズム
山口真一
炎上で世論はつくられる――民主主義を揺るがすメカニズム
2026/1/8
990円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4480077233

炎上・フェイク・陰謀論──
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刹那的な感情を煽る「ネット炎上」、真偽不明の「フェイク情報/陰謀論」の拡散は以前から問題視されてきたが、今や政治の世界を覆い、選挙結果を左右するまでになった。米大統領選から参院選まで、注目を集めることに最適化した極端な主張を持つ候補者が支持を得た。既存の政治を破壊するネットの論理とメカニズムとは何か。今後ますますスタンダードになるであろうSNSの暴力と、私たちはいかに対峙すべきか。近年、急激に進む政治とネットの融合を、若き第一人者が問い直す。

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【目次より】
はじめに──SNSが選挙を動かす時代

第1章 SNSが選挙を変えた年──2024年の衝撃

第2章 炎上のメカニズム──「言葉の刃」としてのSNS

第3章 フェイク──民主主義を揺るがす誤情報

第4章 規制で解決できるのか?──情報流通の社会的枠組みを問い直す

第5章 人類総メディア時代をどう生きるか?──未来への提言

あとがきにかえて──情報社会の未来を生きる私たちへ

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