ぶっつけ本番でそばを打ち始めて職人の目に
しかも、麺も出汁の“かえし”も自家製。上野店と百合ヶ丘店に製麺スペースがあり、毎日打っている。朝4時に店に入り、6時の開店に合わせて製麺と出汁作りを始める。合理的な経営だけでは語れない手間が、確かにある。
「出汁は香りが違うんですよ。本部から送られてくる出汁じゃないんで」
驚かされるのは、そば打ちの技術も独学だという点だ。
「最初は本当に独学です。機械を買ったとき、製麺機屋さんに30分くらい教えてもらったりしました。あとはもう、ぶっつけ本番です」
いまでは、湿度や気温に応じて加水率を調整するなど、完全に職人の目になった大橋さん。あののどごしが、独学の末にたどり着いたものだとは思えない。
きっかけは何気ない思い付きだったかもしれない。だが、その後に積み重ねてきた日々が、この一杯をつくっている。
立ち食いそばはいま、どこも厳しい戦いを強いられている。
薄利多売の営業スタイルは、物価高騰の影響をもろに受ける。後継者問題もあり、個人の立ち食いそば屋の閉店ラッシュが続いている。
大橋さんに2025年を振り返ってもらうと、真っ先に返ってきたのはこの言葉だった。
「とにかく物価高ですね。材料も全部上がってますけど、エネルギー価格が一番重い」
それでも、元長が比較的価格を抑えられている理由がある。
製麺も出汁も、自分のところでやっているからだ。業者に頼れば楽になる。だが、その分コストは確実に跳ね上がる。
こだわりとして機能している部分が、結果的にコストを抑える要因にもなっている。
「自分でやれば、体力的にはきつい。でも、価格は抑えられます」
もちろん、値上げゼロではない。この一年で、麺は20円ずつ、天ぷらは10円ずつ。2回の値上げがあった。それでも、客の反応は意外なほど静かだった。












